イノベーションのジレンマとリバース・イノベーション

2012-02-27 05:21 pm

ハーバードビジネススクールのクレイトン・クリステンセン教授の「イノベーションのジレンマ」のコンセプトは、ビジネス界に大きなインパクトを与えました。

優良企業が、顧客の意見に耳を傾け、顧客が求める製品を増産し、改良するために新技術に積極的に投資するが故に、また、市場の動向を注意深く調査し、最も収益率の高そうなイノベーションに投資するが故に、その地位を失うというのが「イノベーションのジレンマ」です。

その原因となるのが、「破壊的イノベーション」です。「破壊的イノベーション」は、低価格、低性能のローエンド市場向け製品・サービスとして現れます。ハイエンド市場の顧客向けに高性能で収益率の高い製品・サービスを提供する優良企業は、これを無視します。いや、高性能や高利益率を求める顧客や投資家の要求、それに適応した社内プロセスのために無視せざるを得ません。しかし、「破壊的イノベーション」は新しい製品・サービスであるが故にその進化も早く、短期間に十分な性能を持つに至ります。「破壊的イノベーション」が十分な性能を持つに至ったときは時すでに遅く、十分な性能と価格競争力を持った製品・サービスが既存企業の顧客とその地位を奪ってしまうというものです。

日本の大手企業の多くは、この「イノベーションのジレンマ」に陥っています。成長する新興国が市場の中心となり、そこそこの性能で低価格の製品・サービスが求められる中、高性能を追求することに適応してしまった日本企業は、自社製品とカニバリゼーションを起こすかもしれない新興国のニーズに対応した製品・サービスの開発がなかなかうまく出来ません。

「イノベーションのジレンマ」に陥りその地位を失いつつある日本企業再生の切り札の一つとして考えられるのが、「リバース・イノベーション」です。

「リバース・イノベーション」とは、従来のグローバル企業が、先進国で製品・サービスを開発し、新興国・途上国に展開することを基本としてきたのに対し、新興国・途上国で製品・サービスを開発し、そのグローバル展開を目指すというものです。 

このリバース・イノベーションの成功事例として挙げられるのがGEです。GEは、2009年に「今後6年間に30億ドルを投じ、医療分野において、低コストと高性能を兼ね備え、これまで以上に利用しやすいイノベーションを最低100種類開発」するとして、1,000ドルの携帯型心電計やノートPCを利用する1万5,000ドルのコンパクト超音波診断装置を紹介しています。この2つのイノベーションは、新興国向けに開発された後、米国市場に展開されているリバース・イノベーションの代表例です。

リバース・イノベーションは、破壊的イノベーションを自ら作り出そうとするものですので、既存事業とは相容れず、実践には工夫が必要です。GEでもリバース・イノベーションの実践にあたって、社内プロセスや社員の意識が障壁となったようですが、GEは以下のような対応をしています。(これがそのままリバース・イノベーションの押さえどころと言って良いかと思います。)

1.経営陣のコミットメント

リバース・イノベーションにおいて最も重要なことは、新興国市場で製品やビジネスモデルが次々に生まれてくるように、社内に新しい形態の組織を用意することです。長い時間をかけて出来上がったものとは異なる構造、プロセス、経営慣行を持つ組織を作り上げ、機能させるためには、経営陣が中心的役割を果たす必要があります。

GEの場合は、CEOのジェフ・イメルトが年2回中国とインドを訪問して、従業員、政府要人、現地企業のCEOなどと対話を重ね、現地の状況と必要とされるイノベーションを良く理解した上で、トップダウンで、リバース・イノベーションなどの必要なイニシアチブに資金を与え、適切なリーダーを配置しています。

2.独立組織の設置

先進国と新興国では、所得や社会インフラなどに大きな相違があるため、リバース・イノベーションは、ゼロからスタートすることが必要で、組織構造もゼロからバリューチェーン全体を設計する必要があります。また、自律的に活動できる独立した組織でなければ、既存のグローバル事業に手足を縛られて、新興国のニーズに対応した独自の戦略、組織、製品を開発できません。

GEでは、リバース・イノベーション推進にあたり、中国とインドに製品開発、製造、マーケティング、販売というすべてのバリューチェーンを備えた独立組織を設置しています。

3.異なる評価指標の適用

リバース・イノベーションを推進するために必要な組織の評価基準や価値基準は、既存の組織とは異なっています。

GEでは、地域ごと、製品ごとに、現地の状況や追求すべき顧客ニーズをしっかり把握した上で、それを実現するために最適な目標や業績評価指標を導入しています。

4.経営と直結したシンプルなレポートライン

リバース・イノベーションは、従来の組織の価値観と異なる製品・サービスを開発しようとしており、既存製品とのカニバリゼーションも想定されることから、既存組織からの抵抗に会いやすいものです。経営陣がリバース・イノベーションチームを既存組織の抵抗から守るとともに、必要なリソースを適切に使えるようサポートすることが必要です。そのためには、できるだけ既存組織からの抵抗に会わずに、かつ経営陣と容易にコミュニケーションできるよう、経営陣とリバース・イノベーション推進するチームとのレポートラインは、シンプルであることが望ましく、ダイレクト・レポートラインであることが理想的です。

GEでは、中国やインドのリバース・イノベーションチームのレポートラインを直接グローバルビジネスのシニア・エグゼクティブにすることにより、グローバルリソースの活用と開発製品のグローバル展開を容易にしています。

高度成長時代、日本の立場は、今の新興国でした。日本企業は、当初、低価格だが低性能・低品質な製品を提供する存在として欧米企業に無視されていたのが、急速に高性能・高品質で価格競争力のある製品を提供するようになり、世界を席巻しました。当時の日本市場は、破壊的イノベーションを生み出すのに適しており、日本企業は、破壊的イノベーションを生み出すのが得意でした。

今や立場は完全に逆転しています。日本国内では、破壊的イノベーションを生み出すのはなかなか難しいでしょう。そこで、リバース・イノベーションです。新興国・途上国発で次の世界市場をターゲットとするイノベーションを生み出すリーダーと組織を設置することが求められます。「イノベーションのジレンマ」に囚われた現在の日本企業は、そうしたことにも困難を感じてしまうのかも知れませんが、今後、グローバル市場で勝負していくには、こうしたチャレンジの積み重ねが不可欠と考えます。

(参考)

「イノベーションのジレンマ」クレイトン・クリステンセン著(翔泳社、2000年)

「GEリバース・イノベーション」ジェフリー・イメルト他(DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー2010年1月号)

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