オリセットネットとボトムアップ×継続のCSV

2015-08-20 09:20 am

前回、「継続」が日本的経営の特徴ではないか、ということを書きました。もう一つの日本的経営の特徴として、「現場重視」「ボトムアップ」ということがあると思います。CSVについても、現場の意思や現場の強さを生かすことが、「日本型CSV」の方向性として考えられるでしょう。

日本のCSVの代表例として、「ボトムアップ」×「継続」で生まれたものがいくつもあります。その一つが、住友化学のオリセットネットです。「ビジネスにならない」と考えられていたオリセットネットは、社内の協力を得るのも大変で、何度も壁にぶつかりながら、伊藤高明氏という個人の思いと粘りにより、命脈を保ちました。

オリセットネットは、樹脂に殺虫剤が練りこんであり、長期に亘って殺虫剤が少しずつ出てくる「長期残効蚊帳」です。オリセットネット以前にも、マラリア防止用蚊帳はありましたが、蚊帳を殺虫剤に漬けて表面に浸み込ませるタイプで、効果が短いため、使用者が何度も漬け直す必要があるものでした。そのために、利用者である途上国の住民に、殺虫剤を漬け直す習慣を根付かせる必要がありました。海外の支援組織も、漬けるタイプの蚊帳を広げようとしており、当初、オリセットネットに対しては、「住民に殺虫剤を漬け直す習慣を身につけさせようと啓蒙活動しているところで、それを不要とする製品を展開することは、マラリア防止プログラムにとってマイナスである」として、クレームが付くような状況でした。

最終的には、WHOが住民の啓蒙活動に限界を感じ、「長期残効蚊帳」を推奨する方向に方針展開したことで、オリセットネットの普及は進みましたが、伊藤氏の「継続する力」がなければ、オリセットネットはそこまで持たなかったでしょう。オリセットネットは、2004年に米「TIME」誌から「MOST AMAZING INVENTION(世界で最も驚くべき発明)」の表彰を受け、オリセットネットの知名度が上がったため、社長の米倉氏への様々な会合への招待が増えるようになりました。ダボス会議では、タンザニア大統領のマラリア対策への訴えに対し、シャローン・ストーンが立ち上がり「私が個人として、1万ドルを供出します。それでオリセットの蚊帳を購入して欲しい。他にも賛同する人はいませんか」と呼びかけ、米倉社長の目の前で100万ドルが集められるといった出来事もあり、住友化学は、オリセットネットに本腰を入れて取り組むようになりました。

ボトムアップで社外の支援を得て、それでトップを動かすというのは、CSVならではのものです。また、オリセットのように、ボトムアップの継続で生み出されるCSVは、日本ならではと言えるかもしれません。現場で強い思いを持つ人が、社外の力も借りて経営レベルでの投資の意思決定まで持っていくことができれば、日本企業は組織としての継続力があります。最近は、収益性の壁が厚くなり、経営レベルでの意思決定まで辿りつけず、優れたアイデアが埋もれてしまっているケースも多いように感じています。CSVの考え方がそうしたアイデアを開花させられるよう、現場の思いを上手く汲み取る「日本型CSV」の可能性を、もっと広げていきたいと思います。。

(参考)

「日本人ビジネスマン、アフリカで蚊帳を売る」浅枝敏行著(東洋経済新報社、2015年7月30日発行)

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