知られざる競争優位-ネスレはなぜCSVに挑戦するのか-

2016-04-11 08:52 am

ネスレのCSVを主導する会長ピーター・ブラベック氏の経営哲学を描いた書籍が日本語で出版されたので、早速読みました。原書は2009年に出版されているもので、少し古いのですが、ブラベック氏がどのような考えで企業を経営し、CSVを推進しているのかが良く分かります。ブラベック氏とは、以前、シェアード・バリュー・サミットでお会いしたことがあります。一見強面ですが、実際に話をしてみると親しみやすい感じの人でした。

ブラベック氏は、書籍の序文で、「企業はその経済的目標を、株主、社員、消費者、取引先、国家経済など、ステークホルダーすべてに持続可能な価値が創造されるよう設定する必要がある。この価値は、共に創造しなければならない! 唯一の方法は、すべての意思決定を持続可能性と長期目標に基づいて行うことだ。」「企業の真の力は、その規模や事業運営能力ではなく、理念や目的の力にあると確信している。」と言っています。こうした考えが、CSVの土台となっています。

ブラベック氏は、キャリアの初期に17年以上、中南米で営業やマーケティングなどを担当しましたが、その中で、原材料の安定調達や地域社会のニーズに対応することの重要性を理解しました。それがネスレのCSVの考えに反映されています。ブラベック氏は、「地域社会のために価値を創造する努力をし続けなければ、株主を満足させることはできません」と言っています。

CSVという概念を打ち出した経緯については、2005年のダボス会議でCSRを最重要テーマとして議論があったときに、ブラベック氏は、利益を社会に還元するという考えに違和感を持ち、「企業活動は社会に価値を創造しているはず」と考えました。これがネスレの社会的役割を考え直すきっかけとなり、「戦略的フィランソロピー」を提唱していたマイケル・ポーター、マーク・クラマー両氏と議論をし、ネスレの中南米での活動を調査してもらいました。その結果が、2006年にネスレのCSV活動に関する報告書として纏められ、ネスレが行なってきたCSV活動が整理され、その後の方向性が打ち出されました。そして、2007年から「CSV報告書」を発行するようになり、CSVは、ネスレの企業文化の一部として、全社的な意思決定に反映されるようになりました。

その他、CSVに関連するところでは、ブラベック氏がCEOとして下した最大の決断の一つに、「食品メーカーから栄養・健康・ウエルネス企業への戦略的転身」があります。リーダー企業として他社と比較するベンチマーキングではなく、他社と如何に差を広げるかの「ベンチブレーキング」の考えを導入し、「栄養・健康・ウエルネス」という他社と差別化するための新しいカテゴリーを生み出しました。ブラベック氏は、従来の食品事業では今後の成長の可能性は限られると考えており、高齢化が進む中、今後重要性が増すと考えられるウエルネスの概念に注目しました。そして、健康促進の重点分野を定め、研究開発活動を再編し、新規事業創造のポテンシャルを高めました。

書籍の中では、ブラベック氏の後継CEOがどのように決められたかについても紹介されています。現在のネスレCEOのポール・ブルケ氏とユニリーバCEOとしてサステナビリティ・リビング・プランを推進するポール・ポールマン氏が最終的な2人の候補として残り、経営の変革に強みを発揮するポールマン氏より、継続を旨とするブルケ氏が次のCEOに選ばれ、ポールマン氏はユニリーバのCEOに迎えられたとのことです。結果として、ネスレ、ユニリーバの2社でCSVが強く推進されるようになったというのは、個人的には興味深いと感じました。

「知られざる競争優位」を読み、改めてネスレの経営には、CSVをどう考え、どう推進していくかのヒントが詰まっていると感じました。これまで自社が行ってきているCSV活動を整理した上で、社会の環境変化を踏まえながら、今後のCSV活動の方向性を打ち出していくことなどは、多くの企業で実践すべきことと考えます。CSVコンサルタントとしても、こうした取り組みを提案し、推進していきたいと思います。

(参考)

「知られざる競争優位-ネスレはなぜCSVに挑戦するのか-」フリードヘルム・シュヴァルツ著(ダイヤモンド社、2016年)

CSV戦略ポテンシャル診断サービス
「CSV戦略ポテンシャル診断」サービスページ

コメントを書く







コメント内容


Copyright(c) 2012 Cre-en All Rights Reserved.