リバース・イノベーション

2012-10-09 08:44 am

「リバース・イノベーション」については、以前、このブログでも取り上げています。高機能を追求することに適応してしまった日本企業の多くが、そこそこの性能で低価格の製品・サービスを求める消費者が中心となる新しい市場環境で成功するためには、リバース・イノベーションの理解と実践は、不可欠とも言えます。

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ビジャイ・ゴビンダラジャンの「リバース・イノベーション」は、この経営コンセプトをはじめて体系的に整理した著書で、これにより、ゴビンダラジャンは、世界で最も影響力のあるビジネス思想家ランキングで第3位に選出されています。

先進国市場が主な戦いの場であった時代には、自国で新製品を開発し、その後でローカル市場向けにマイナーチェンジする「グローカリゼーション」が海外市場展開の基本でした。しかし、先進国とは全く異なった製品が求められる新興国が主戦場となる時代には、新興国においてゼロベースで製品開発を行う必要があります。

新興国市場での製品開発では、5つのニーズのギャップ、「性能」、「インフラ」、「持続可能性」、「規制」、そして「好み」のギャップに注目することが必要です。

「性能」については、途上国の人々は、超割安だがそこそこの性能を持つ画期的な新製品を待ち望んでいます。例えて言うなら、15%の価格で50%の性能を発揮する製品を望んでいます。

「インフラ」については、途上国は、道路、通信、電力、銀行など、様々なインフラの状況が先進国とは異なります。基本的にはインフラが不足していることが多いのですが、一部最先端のインフラが整備されていたりもします。例えば、電力などは不安定な地域が多く、電池式の携帯型心電計が求められたりしますが、無線通信などは発達している地域もあり、モバイル・バンキングや遠隔医療が普及しやすい状況にあります。

「持続可能性」については、途上国が今後経済成長を持続していくためには、「環境に優しい」ソリューションが不可欠です。

「規制」については、途上国では公正な競争のための規制が不十分なケースもあるのですが、逆に過度の規制がなく新しい技術が展開しやすい面もあります。例えば、低コストで診断が可能な切手サイズの診断用検査紙は、規制が厳しくない途上国で先に普及しています。

「好み」も途上国では異なります。ペプシコは、インドでトウモロコシではなく、レンズ豆を原料としたスナック菓子を開発し、成功しています。

こうした途上国向けに開発された製品は、先進国市場で提供されている製品がオーバースペックとなっている場合などには、先進国市場でも普及する可能性がありますし、先進国で新しい市場を切り開く可能性もあります。

例えば、中国向けに開発された、安価で、携帯性に優れ、特別なノウハウを必要としないGEの小型超音波診断装置は、先進国で、救急車内、遠隔地の事故現場、救急救命室、手術室など、これまでの製品が対応できていなかった新しい市場を開拓しています。

一方、事業展開にあたっては、リバース・イノベーションのような新しいコンセプトを導入するときには、組織力学の変革が必要となります。

そのためには、CEOは、人材、資金、権限などを途上国での製品開発に移し、リバース・イノベーション専門の特別組織(ローカル・グロース・チーム(LGT))をつくるとともに、全社的に途上国への関心と知識を高め、CEO自信が目に見える形で途上国重視を打ち出す必要があります。

LGTは、リバース・イノベーション成功のための鍵であり、途上国ニーズに知見を有する外部人材の登用、既存組織のルールに囚われない行動基準や評価基準、迅速な学習と柔軟性などとともに、既存事業から邪魔されることなく、グローバルの経営資源を活用できることが求められます。そのためには、経営と直結したシンプルなレポートラインなどが求められます。

P&Gは、先進国で大成功した女性用生理用品「オールウェイズ」が新規に進出したメキシコ市場で思うように販売が伸びないことを受けて、メキシコ市場向けのLGTを編成し、固定観念なく顧客の声に耳を傾けました。そして、公共交通機関による長時間通勤、衛生的な公共トイレの不足、プライバシーが少ない小さな家での生活などメキシコの女性の生活が先進国とかなり異なり、暑くて湿度の高い中で長時間利用するためには、P&Gの競争優位であるハイテク素材よりも自然素材が求められていることを理解しました。

P&GのLGTは、マネジメントレベルによる組織的関与のもと、P&Gの先進国における競争優位に背を向けて製品開発を進めることが許可されました。LGTは、他の事業部門から原材料を借用する、有休設備を活用するなど、全社的な支援を受けることができました。また、市場性が不確実であったため、LGTは、完璧な製品設計を事前に追及する代わりに、安い価格でテストし、その結果から学習していきました。これは、P&Gらしからぬ方法でした。

LGTは、社内にまだ懐疑的な声があることを受けて、スピードを重視し、P&Gの標準からすればかなり粗い段階で新製品「ナチュレラ」を投入しましたが、メキシコ市場では、それで十分でした。ナチュレラは、メキシコ市場で急速にシェアを獲得し、社内の懐疑的な意見も賞賛の声に変わりました。その後、ナチュレラは、品質やコストを改善していき、他の新興国市場でも展開されています。

「性能」「インフラ」「持続可能性」などをゼロベースで捉えなおすリバース・イノベーションは、企業にとって途上国市場での成功に不可欠なものであると同時に、よりシンプルで資源・エネルギー利用や環境負荷の少ない製品開発にもつながります。これは、まさにこれから先進国で求められる製品です。

また、リバース・イノベーションは、技術中心となりがちな日本企業が、顧客の声に真摯に耳を傾けて製品開発を行う、先進国とは異なる習慣や価値観に触れることを通じ、グローバル感度の高い人材を育成するなど、日本企業が抱える課題を解決するためにも極めて有効です。

今後、新興国から様々な企業が勃興し、真のグローバル競争が始まる時代に備えるためにも、今、リバース・イノベーションに取り組まない理由はありません。

(参考)

「リバース・イノベーション」ビジャイ・ゴビンダラジャン+クリス・トリンブル著(ダイヤモンド社、2012年)

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