食品・飲料・農業セクターにおけるCSV(Creating Shared Value)

2012-10-18 08:52 am

食品・飲料・農業セクターは、「食」という人間の最も基本的なニーズに対応する業界であり、世界の水・食糧問題や貧困層の栄養問題に大きく関係しています。また、この業界は、途上国において最大の雇用を提供しており、アフリカでは、農業が雇用の65%を生み出しています。

この業界における代表的なCSV*としては、「1.低価格の食糧供給による栄養不足の解消」「2.小規模農家の支援を通じた高品質原料の安定調達」「3.人材、インフラ、資本アクセス等の競争基盤整備の支援」があります。以下に、それぞれの代表的な事例を示します。

【1.   低価格の食糧供給による栄養不足の解消】

インドの食品企業ブリタニアは、鉄分不足により、インドの子供達の2/3が貧血で学校生活に支障を来たしていることを理解しました。そこで、ブリタニアは、鉄分を強化した低価格の「タイガー・ビスケット」を開発しました。ブリタニアは、また、マスメディアや地域での啓発活動を通じて、子供達の鉄分不足解消のキャンペーンを実施しました。その結果、タイガー・ビスケットは、ブリタニアの製品ラインで最大の生産量を誇り、インドで2番目に人気のあるビスケットブランドとなっています。

ネスレは、1日あたりの所得が10ドルに満たない世界の28億人の人々に、手ごろな価値の製品を届けるため、「手の届く価格帯の製品群(Popularity Positioned Products-PPPs)」を提供しています。ネスレは、PPPsとして300の製品を開発し、70ヵ国で販売しています。PPPsは、ネスレの売上の10%程度を占め、年率12%以上で成長しています。

【2.小規模農家の支援を通じた高品質原料の安定調達】

カーギルは、1990年代に、ブラジルでカカオの木に病気が蔓延し、カカオの収穫量が1/3以下に低下したことを受けて、政府や他の企業と協力し、病気に対応する専門家チームを結成し、被害を受けた農家を支援しました。専門チームは、農家に対し、技術支援、肥料や新たなカカオの木の提供など様々な支援を実施しました。その結果、カカオ農家の生産量は200%増加しカーギルもメリットを得ると共に、農家収入も大幅に増加しました。

コカコーラは、2020年までにジュース事業を3倍にするという目標を掲げています。その一環として、コカコーラは、ビル&メリンダゲイツ財団とパートナーシップを組んで、ケニアとウガンダで、50,000以上の小規模なマンゴとパッションフルーツ農家を支援するプログラムを推進しています。当該プログラムでは、生産性の向上や新市場の開拓により、2014年までに対象農家の収入を2倍にすることを目標として掲げています。このプログラムによるジュースの供給増加は、コカコーラの2020年目標の実現に向けたジュース事業の拡大に大きく貢献しています。

【3.人材、インフラ、資本アクセス等の競争基盤整備の支援】

コカコーラは、強いブランドを持つブラジルで、貧困層への販売を強化しようとしていましたが、流通業者の非効率が、事業展開のネックとなっていました。一方、ブラジルでは、低所得層の若者がスキル不足で仕事を得られないという社会問題がありました。そこで、コカコーラは、そうした若者を教育しつつ、コカコーラの小規模流通業者の戦力として活用しようとするプログラムを開始しました。現在、コカコーラは、69の都市で50,000人の若者を毎年教育しています。それらの地域では、これら若者の力により流通業者は効率的となり、コカコーラのブランドは他の都市よりも強くサポートされており、収益拡大につながっています。

世界最大の無機肥料メーカー、ヤラ・インターナショナルは、アフリカでの事業展開が十分でないと考えていました。同社は、アフリカで、肥料や作物を運ぶためのインフラが未整備であることが問題であると考え、政府やNGOと協力し、モザンビークとタンザニアで港湾や道路の整備に6,000万ドルを投資しました。このプロジェクトにより、モザンビークだけで20万以上の零細農家が恩恵に浴し、35万人の雇用が生み出されると見込まれています。これにより、アフリカにおけるヤラの事業も成長すると考えられています。

ネスレによる元祖CSVと言えるのが、「2.小規模農家の支援を通じた高品質原料の安定調達」ですが、同様な取り組みは、伊藤園の茶産地育成事業など、農家が後継者不足などの問題に直面している日本でも行われています。

また、多くの食品・飲料企業がグローバル展開を課題として掲げていますが、今後市場の成長が見込まれる新興国・途上国で事業を展開していくには、「1.低価格の食糧供給による栄養不足の解消」「3.人材、インフラ、資本アクセス等の競争基盤整備の支援」といった視点も必要です。

食品・飲料・農業セクターでは、グローバル企業によるCSVの取り組みが進んでいます。一方、日本企業が今後さらに発展していくには、農業の抱える問題、健康への対応、新興国・途上国ニーズへの対応など、社会問題との関わりが不可欠です。海外企業をベンチマークしてCSVを進める意義の大きい業界と言えるでしょう。

(参考)

”SHRED VALUE IN EMERGING MARKETS” by FSG(Foundation Strategic Group)

「共通価値の戦略」マイケル E・ポーター&マークR・クラマー(DIAMONDハーバードビジネスレビュー2011.6)

 

*CSV(Creating Shared Value=共有価値の創造)については、以下を参照

www.cre-en.jp/mizukami-blog/?p=162

www.cre-en.jp/mizukami-blog/?p=319

www.cre-en.jp/mizukami-blog/?p=436

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