“未来を創る”教育とCSV

2013-03-25 07:27 am

P.F.ドラッカーは、「すでに起こった未来」として人口動態をあげています。今の0-1歳の人口は、18年後には18-19歳の人口となります。それが大学の経営に及ぼす影響については、予想が付きます。

同様に、今の子供たちに身につける知識、嗜好、習慣や価値観は、未来の企業や社会に影響を及ぼします。途上国の子供達への教育は、将来の国家の発展をもたらします。多くの子供たちがものづくりを好きになれば、ものづくりの担い手が将来も不足することはないでしょう。

そういう側面もあり、教育はCSV*の取り組みが盛んな領域の一つです。

代表的な事例が、シスコの“ネットワーキングアカデミー”です。ネットワーキングアカデミーは、シスコが教育機関とともに提供する、インターネット技術者を育成するための教育プログラムです。途上国や米国の貧困地域などを中心に世界165ヶ国、10,000ヶ所で展開しており、毎年約100万人を教育しています。

インターネット関連機器をコア事業とするシスコにとっては、各国におけるICT(Information and Communications Technology)市場の発展が将来の成長のカギとなります。途上国などでインターネット技術者を養成して、ICT市場を創造することは重要な意味を持ちます。

例えば、ブラジルではICT市場の発展により、2015年までに10万人の技術者が必要になると予測されています。シスコにとっては、技術者不足がブラジルのICT市場発展の制約とならないようにすることが必要です。

このネットワーキングアカデミーは、アフリカ、アジアなど多くの途上国で、ICT市場の発展と雇用の創出に大きく貢献しています。

対象を子供たちに限っていませんが、ゴールドマンサックスの「10,000 Women」プロジェクトも教育関係のCSVと言えます。途上国の女性10,000人に、マーケティング、ビジネスプラン、ファイナンスなどのビジネス教育を提供しています。これは、途上国の発展や女性の社会参画を促進するとともに、ゴールドマンサックスにとっては、成長市場におけるレピュテーション向上とともに、将来の顧客となる起業家を創り出しています。

国内では、楽天が電子書籍端末コボタッチを学校に無償供与しています。これは、教育の内容ではなく、教育の方法を変えていこうとする教育関係のCSVです。電子書籍を使った効果的な教育のやり方が広がれば、楽天の電子書籍ビジネスも発展します。また、電子書籍で教育コンテンツを購入することは、若年層が楽天の会員になることを意味します。楽天は、当面数千台程度のコボタッチを無償供与する計画です。

個人的には、日本の教育は学校への依存が強すぎるように思います。家族、地域、さらには企業も、もっと日本の未来を担う子供たちに責任を持つべきです。多くの企業がCSR活動として出前授業などを実施しています。こうした活動は、CSV的視点も含め、もっと広く行われても良いと思います。

教育現場に企業視点が入ることについては、懸念もあると思います。しかし、企業のノウハウやリソースを活用することで、子供たちにとって、本当に良い教育プログラムを作ることが出来るはずです。地球環境や生態系の大切さ、世界の様々な国・地域の人たちへの共感、様々な考えやスキルを持つ人たちが協力すること。企業には、子供たちに大切なことを教えることができる力があるはずです。

(参考)

「シスコネットワーキングアカデミー」

www.huffingtonpost.com/kathy-mulvany/shared-value-amplifying-business-and-community_b_2883645.html

Goldman Sachs「10,000women」

www.goldmansachs.com/citizenship/10000women/index.html

「楽天、教育で若年層顧客開拓」日経ビジネス2013.2.25

*) CSV(Creating Shared Value=共有価値の創造)について

www.cre-en.jp/mizukami-blog/?p=162

www.cre-en.jp/mizukami-blog/?p=319

www.cre-en.jp/mizukami-blog/?p=436

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コメント6件

  • 若者を育て、自社も強くなる - 水上武彦のサステナビリティ経営論 | 2013.06.10 9:04

    [...] www.cre-en.jp/mizukami-blog/?p=769 [...]

  • 山本M | 2013.06.23 23:50

    過去の記事へのコメントで申し訳ございません。
    とても興味深い記事でした。

    CSVとは、企業が社会問題の解決を通して営利を獲得していく新しいビジネスであると解釈しているのですが、この記事に記載されている事例に関しては企業はどのような形で営利を獲得しているのでしょうか?

    また、途上国において問題となっている初等教育への不就学問題でこのCSVの概念を取り入れたビジネスが行われている事例はありますでしょうか?

    お時間の空いたときにご返信いただければ幸いです。
    よろしくお願い致します。

  • 水上 武彦 | 2013.06.24 15:48

    コメント頂き、誠にありがとうございます。
    CSVにおける「自社にとっての価値」としては、売上やコスト削減等の直接的な利益を想定する場合もありますが、
    長期的な自社の競争力向上を想定する場合もあります。

    本記事の事例においては、各企業は後者の価値を追求しており、それぞれ以下を想定しています。
    シスコ:ICT人材の育成による市場の発展、自社での優秀なICT人材の獲得
    ゴールドマンサックス:将来市場の発展、将来市場での自社の評判向上、将来顧客としての起業家の創造
    楽天:電子書籍を使った教育市場の創造、電子書籍を使った教育に関するノウハウ獲得、若年層の会員獲得

    なお、途上国における初等教育の不就学問題について、企業が戦略上重要な地域における市場創造のため、
    教育における問題解決を支援するということは、CSVの考え方としてあり得ると思います。ただし、かなり長期的な
    取り組みが求められるため、まずは、NPO/NGOや政府機関と協力した社会貢献的な活動として取り組むことに
    なるのではないかと思います。申し訳ありませんが、良い事例もすぐには思いつきません。

    以上、少しでも参考になれば幸いです、
    何卒、宜しくお願い致します。

  • 寄付が悪いわけじゃない - 水上武彦のCSV/シェアード・バリュー経営論 | 2013.11.11 13:11

    [...] www.cre-en.jp/mizukami-blog/?p=769#.Un8QVBqCjIU [...]

  • すべての企業にとって重要な「教育」のCSV - 水上武彦のCSV/シェアード・バリュー経営論 | 2014.01.06 9:18

    [...] www.cre-en.jp/mizukami-blog/?p=769#.UseWFrmIqP8 [...]

  • IoT時代の人財活躍のCSV: 進化するシスコ・ネットワーキング・アカデミー - 水上武彦のCSV/シェアード・バリュー経営論 | 2017.06.26 8:50

    [...] www.cre-en.jp/mizukami-blog/?p=769#.WU3FQ2cUnIU [...]

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