CSV視点での事業の組み換え
このブログでも何度か取り上げていますが、最近、社会問題の解決をミッションに掲げ、全社的にCSVを推進する企業が増えています。全社的にCSVを推進するためには、社会的使命を企業文化に取り込み、社会問題の解決に資するイノベーションの開発に資源を振り向ける必要があります。また、CSVを実現するためには、既存事業を社会的使命の観点から見直し、事業ポートフォリオを組み換える必要も出てくるでしょう。
ダノンのCEOフランク・リブーは、自社が健康食品メーカーという原点から離れていること、一方で、ステークホルダーが栄養への関心を高めていることを察知し、事業を組み換えました。リブーは、人、自然などのテーマを重視して、ビール、肉類、およびチーズ関連の事業を売却し、他の乳製品と水事業に再び特化するとともに、乳幼児向け食品や医療用栄養食の会社を買収しました。
GEは、「もっと世界が直面する困難な課題の解決に貢献する企業でありたい。そのためには世界中の人々の生活の基盤となるインフラストラクチャーにフォーカスし、ソリューションを提供する会社であるべきだ」(ジェフ・イメルトCEO)として、「プレミアム・インフラ・カンパニー」になるべく、事業ポーフォトリオを再構築しています。2000年代には、金融事業が売上の50%以上を占め、ゼネラリー・ノット・エレクトリックと言われたこともありましたが、今では、金融事業は約30%に縮小しています。また、利益率の高かったメディア事業からも、会社の方向性と合わないということで、撤退しています。そして、2015年にGE全体の利益に7割をインフラ事業で稼ぐことを目標に、製造業部門をさらに強化すべく、組織を再構築しています。
地球規模のメガトレンドを俯瞰し、今後100年間「必要とされる会社」を目指すデュポンは、石油やガスなど化石燃料に依存する化学メーカーから、農業・バイオ技術を軸とするサイエンス・カンパニー変身しようとしています。そのため、デュポンは、石油事業、繊維事業などの売却に続き、売上の18%を占め、利益率も15%と高かった高機能化学部門を分離しています。
米国の大手ドラッグストアCVSは、CVSヘルスと名称を改め、タバコの販売を中止しました。「健康」を企業戦略の中核に据え、その戦略と整合しないタバコの販売は、20億ドルの売上がありましたが、止めることにしました。タバコの販売を最初に停止し、健康に配慮するドラッグストアとしてブランディングし、処方薬調剤プログラムなどの事業で業績を伸ばし、基本的医療サービスを広範に提供するチェーンとして優位性を確保しようとしたものです。その目論見は、今のところ成功しているようです。2014年第4四半期の売上は、タバコ分の売上減少を補って、前年比12.9%の売上増を記録しています。
日本企業も、事業売却やM&Aなどを通じて事業ポートフォリオを組み換えるケースが増えてきています。こうした事業ポートフォリオの組み換えは、利益率、マーケットシェア、スケールメリットなどのために行われるケースが多いと思いますが、企業理念に基づき社会的使命を実現するという視点も、忘れてはなりません。
(参考)
www.mercer.co.jp/insights/focus/consultant-column/664.html?s=mm
「共通価値を創出する5つの要素」(DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー2014年1月号)
「GEは事業で社会的課題を解決する」(DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー2015年1月号)
「デュポン-200年企業が見る未来」(日経ビジネス2014.06.02)
jp.wsj.com/articles/SB10001424052970203736504580133052339009276