ブルーオーシャン戦略とサステナビリティ
「ブルーオーシャン戦略」。なかなかいいネーミングです。概念自体も、競争の激しい既存市場(「レッドオーシャン」)を避けて、競争のない新しい市場(「ブルーオーシャン」)を切り拓く、というなかなかスマートなものです。
事業戦略というと、「競合企業とガチンコで勝負して相手を叩きのめす」といったイメージを持たれる方もいるかも知れませんが、事業戦略の理想形は、やはり「戦いを略す」ことにあると思います。如何に競合と戦わない戦略を策定するか、それがブルーオーシャン戦略です。
ブルーオーシャン戦略を実践するためには、従来の製品・サービスとは異なる価値を顧客に提供する必要があります。カギは、「どうやって従来と異なる価値を持つ製品・サービスを生み出すのか?」です。
ブルーオーシャン戦略では、従来と異なる価値を生み出すツールとして、「戦略キャンバス」を用います。戦略キャンバスとは、横軸に、価格、使いやすさ、信頼性などの顧客提供価値を、縦軸にその提供価値の大小を示したグラフです。この戦略キャンバスを描くことによって、その製品・サービスの特徴、すなわち、どのような価値を顧客に提供しているものかが、明らかになります。
例えば、ブルーオーシャン戦略の成功例としてあげられるサーカスのシルク・ドゥ・ソレイユでは、テーマ性、快適な鑑賞環境、芸術性の高い音楽とダンスといった顧客提供価値を強化し、一方で、花形パフォーマーや動物ショーといったものを削減しています。
ブルーオーシャンを見出すということは、戦略キャンバスの横軸の顧客提供価値について、従来の製品・サービスとは異なる顧客提供価値の組合せか、従来気付かなかった新しい顧客提供価値を見出すということです。ブルーオーシャン戦略では、そのための手法として、代替産業に学ぶ、業界内のほかの戦略グループから学ぶ、機能志向と感性志向を切り替える、将来を見通すなど、具体的なアプローチを提唱しています。
しかし、ブルーオーシャンを見出すという作業は、簡単なものではありません。従来とは異なる新しい顧客提供価値を見出すと言っても、特に既存のビジネスにどっぷり漬かっていると、なかなか新しい視点は思いつかないか、思いついたとしても腑に落ちず実行できないケースが多いものです。
ブルーオーシャンを見出すためには、新しいレンズが必要です。例えば、“サステナビリティ”というレンズで顧客提供価値を考えてみてはどうでしょうか。環境や社会課題を解決するという視点で、製品・サービスを捉えなおすのです。
最近は、環境や社会問題に対する関心が急速に高まっていますが、これは不可逆のメガトレンドだと思います。社会・経済のあり方自体が問われる時代にあって、人類や社会の長期的存続を求めるサステナビリティへの関心が高まるのは自然なことです。最初は、一部知識層の議論から始まっているかも知れませんが、だんだん人々の意識や行動に影響を及ぼしていくものです。
すでにその動きは起こっており、環境や社会に配慮した製品への関心は、間違いなく高くなっています。実際、“超節水”や“この商品の売上の一部で途上国の子供たちの笑顔が増えます”といった商品が売れるようになっています。ハイブリッドカーにしても、多くの人は、これほど売れるとは考えていなかったのではないでしょうか。
前述のシルク・ドゥ・ソレイユにしても、そのアイデアのきっかけの一つに、動物をショーに使うことに対する世間の反発が強まっていたことがあります。
「自社の製品・サービスは、社会・環境面でどのような貢献ができるのか?」そう問いかけることによって、新しい顧客提供価値、ブルーオーシャンが見えてくるのではないでしょうか。そのためには、いろいろなステークホルダーと対話することも有効でしょう。
また、ブルーオーシャンは、「思いついても社内を説得できない。」といったこともあるかもしれませんが、そこは担当者の熱意と工夫の発揮しどころです。
クラレ創業者の大原孫三郎は言っています。「十人の人間のうち、五人が賛成するようなことは大抵手遅れだ。七、八人がいいといったらもうやめた方がいい。二、三人位がいいということをやるべきだ」。
(参考)
「ブルーオーシャン戦略」W・チャン・キム+レネ・モボルニュ著(ランダムハウス講談社、2005年)
そもそもCSV(Creating Shared Value=共有価値の創造)とは何か? - 水上武彦のサステナビリティ経営論 | 2013.01.07 11:03
[...] www.cre-en.jp/mizukami-blog/?p=199 [...]