三方よしの保険プログラム:ディスカバリー
保険は、CSVと親和性の高い商品だと思います。顧客は、問題が発生するリスクに備え保険をかけ、もし問題が起こらなければ、保険会社の収益になります。社会問題・環境問題に関わる保険も多くありますが、保険会社としては、社会問題・環境問題が発生しないような取り組みを進めることで、自社の収益を上げることができ、シェアード・バリューな取り組みとなります。
こうしたCSV/シェアード・バリューを実践している代表的企業に、南アフリカのディスカバリーがあります。ディスカバリーは、1997年より「バイタリティ・プログラム」という健康改善プログラムを付帯した医療保険の販売を行っています。バイタリティ・プログラムにより加入者に健康改善のインセンティブを与え、加入者が健康になることで、保険金の支払いを減らして収益を上げています。
バイタリティ・プログラムの加入者は、まずオンラインのアンケート形式の健康チェックで、自社の現状を把握することで、最初の「バイタリティ・ポイント」を獲得します。健康チェックに回答すると、自分の健康年齢が算出され、それを若返らせるための運動や食生活に関する取り組みが提示されます。加入者がその内容を参考に、ジムやウォーキング、健康食材購入、予防検診などの健康改善の取り組みをすると、ポイントが貯まっていきます。1年間の取り組みを通じて獲得した累計ポイントに応じて、ブロンズ、シルバー、ゴールド、プラチナという4段階のステータスが決まり、加入者は、ステータスに応じて、旅行やエンターティメントなど、パートナー企業が提供する様々なリワードを受け取ることができます。
ディスカバリーは、このプログラムを効果的に運営するために、ウェアラブル端末などを通じてデータを収集し、それを行動経済学的に、加入者の医療データ、保険数理データなどを合わせて分析しています。
このように、バイタリティ・プログラムは、インセンティブと行動経済額理論に基づき「人々を健康にし、生活の質を守り向上させること」を目指して、医療保険と健康増進プログラムを結び付けています。ディスカバリーは、このビジネスモデルを「シェアード・バリュー・モデル」、保険を「シェアード・バリュー・インシュランス」と呼んでいます。
バイタリティ・プログラムの加入者は、インセンティブを通じた運動や生活習慣の改善により、健康状態が改善し、疾病予防が図られ、医療サービスの利用が減少します。これにより支払い保険料が抑制され、その収益は、ディスカバリーの収益になるとともに、パートナー企業のリワードを通じて加入者にも還元されます。また、人々が健康になり疾病予防が図られることは、社会保障費の削減など社会のためにもなります。まさに、「売り手よし」「買い手よし」「世間よし」の三方よしの保険プログラムです。
バイタリティ・プログラムは、600万人の会員を持つ世界最大級の健康改善プログラムとなっており、参加者は非参加者に比べ、受診率が10%低下し、入院日数が25%短縮し、1人あたりの医療費が14%減少しています。また、ディスカバリーは、過去10年間の営業利益が平均22%で成長しており、世界で最も成長し利益を挙げている保険会社の一つとなっています。今年のシェアード・バリュー・サミットのマイケル・ポーターの講演でも紹介されていましてが、CSVのベストプラクティスの一つと言えるでしょう。
(参考)
www.sjnk-ri.co.jp/issue/quarterly/data/qt67-2.pdf