コレクティブ・インパクトとシェアード・バリュー
先日参加したShared Value Leadership Summit 2016では、コレクティブ・インパクト(Collective Impact)が主要なテーマの一つとなっていました。コレクティブ・インパクトは、2011年にHarvard Business Review(HBR)に発表されたCSV論文の著者であるマイケル・ポーター教授とマーク・クラマー氏により設立されたFSGが提唱し、推進しているコンセプトです。
コレクティブ・インパクトとは、特定の社会問題について、1つの組織だけで取り組むのではなく、政府、企業、市民セクター、財団などが、互いの強みを活かして取り組むことで問題を解決しようという考え方です。FSGのジョン・カニア氏とマーク・クラマー氏が2011年にStanford SOCIAL INNOVATION REVIEW(SSIR)に”Collective Impact”という論文で提唱しています。
CSV/シェアード・バリューとコレクティブ・インパクトは、両方とも2011年にマーク・クラマー氏が共著者となり提唱されており、FSGが推進しているコンセプトですが、これまでは、別々に推進されてきました。CSV/シェアード・バリューは、企業の戦略コンセプトとして推進され、コレクティブ・インパクトのほうは、社会問題を解決するアプローチとして、どちらかというと、市民セクターなど向けのコンセプトというイメージがありました。
しかし、CSV/シェアード・バリューの典型的なアプローチとして、企業が、政府や市民セクターなどと協力して社会的課題に取り組むケースが多くあり、これはコレクティブ・インパクトに他なりません。HBRとSSIRの論文から5年を経て、FSGもコレクティブ・インパクトがCSV/シェアード・バリューの典型的かつ特徴的なアプローチであるとして、融合して推進するようになっているようです。
Shared Value Summit 2016でも同様な説明がありましたが、SSIRの論文では、コレクティブ・インパクトの5つの要素として以下が挙げられています。
【共通アジェンダ(Common Agenda)】
すべての参加者が社会問題解決に向けた問題認識、アプローチ方法などのビジョンを共有すること。参加者間で問題やゴールの定義は少し異なるのが通常であるが、大きな方向性は共有しておく必要がある。
【評価システムの共有(Shared Measurement System)】
共通アジェンダを実現するためには、成功をどう測定しどう報告するかに合意する必要がある。取り組み全体と各参加者の成果を合意された指標に基づき測定することは、全体の活動を整合させるだけでなく、各参加者が説明責任を果たし、互いに学び合うことを可能とする。
【活動を互いに強化し合う(Mutually Reinforcing Activities)】
多様なステークホルダーが協働する中、参加者全員が同じことをするのではなく、各自がそれぞれの活動を推進しつつ、連動し互いに補完し合うことが必要。
【継続的コミュニケーション(Continuous Communication)】
各参加者が互いに異なる活動をしながら、共通のモチベーションを認識し尊重するためには、定期的かつ継続的なコミュニケーションが必要となる。
【活動全体を支える組織(Backbone Support Organization)】
コレクティブ・インパクトを創造しマネジメントするためには、活動全体の支えとなるにふさわしいスキルを持つ独立組織とスタッフが求められる。
日本では、まだこうした取り組みを行っている企業は少ないのが現状ですが、多くのパターンのCSVを進める上で、コレクティブ・インパクトは、極めて重要です。政府、企業、市民セクターのそれぞれを理解する者としては、Shared Value Initiativeなどのネットワークも生かしつつ、バックボーン・サポートとして他の4つの要素とコレクティブ・インパクトの実現を積極的にサポートしていきたいと考えています。
(参考)
ssir.org/articles/entry/collective_impact