社会貢献活動を通じて市場を創り出す: ノボ・ノルディスクの中国市場進出の事例から
企業が行う社会貢献活動については、「事業と関連させるべきでない」という立場の人もいるようですが、私は、企業が行う社会貢献活動については、「何らかの経営的意味合いが必要」という立場です。経営的意味合いがなければ、社会への貢献も限られたものにならざるを得ませんし、業績が厳しくなれば見直しの対象となってしまいます。
社会貢献活動の経営的意味合いとしては、社会での評判を高める、従業員のモチベーションを向上させる、ステークホルダーとの関係性を強化するなど、いろいろありますが、個人的には、“従業員のスキル・モチベーション向上”と“事業展開地域での競争基盤強化”が中心と考えています。
(参考)business.nikkeibp.co.jp/article/manage/20110712/221445/
今回は、“事業展開地域での競争基盤強化”の事例として、ノボ・ノルディスクの中国市場進出の事例を取り上げます。この事例は、競争基盤強化を超えて、“新たに市場を創り出した”と言える事例です。
ノボ・ノルディスクは、デンマークに本社を置くグローバル製薬企業で、糖尿病領域、成長ホルモン領域、血友病領域において、製品とサービスを提供しています。特に、糖尿病ケアでは、世界のリーディングカンパニーで、売上高は、日本円換算で1兆円を超えています。
また、毎年ダボス会議で発表される「世界で最も持続可能な100社」で、今年は1位を獲得するなど、サステナビリティの優良企業としても知られています。
ノボ社は、1994年に中国市場に本格参入することとしましたが、当時の中国では、ライフスタイルが変化し糖尿病患者が増える一方、糖尿病は不治の病と考えられ、適切な治療が行われておらず、糖尿病治療薬の市場はありませんでした。
そこで、ノボ社は、まず社会貢献活動を通じて、患者や医療従事者の意識を変え、市場を創り出すことからスタートしました。
社会貢献活動として、医療従事者に対し、糖尿病専門会議の開催や糖尿病の教育プログラムなどを実施したほか、政府と連携し、医師や看護婦の教育実習トレーニングの実施、各地区での糖尿病ケアモデル作りを展開しました。また、患者に対し、47都市の病院に合計70の教育センターを設置し、糖尿病と正しく付き合うための教育セミナーを実施。さらには、メディアと積極的に協力し、糖尿病に関する情報発信を行いました。
こうした啓発活動を通じて、ノボ・ノルディスクは、中国において糖尿病患者が適切な治療を受けられる土壌を創り出すことに成功し、患者およびその家族を支援するとともに、自社の糖尿病薬の販売を拡大しました。その結果、2010年時点で、10億ドルの中国の糖尿病治療薬市場で63%のシェアを占めるに至っています。
また、同社は、“事業展開地域での競争基盤を強化”するため、1995年に中国で生産を開始。これにより、生産効率を高め、顧客ニーズに迅速に対応することを可能にするとともに、将来の規制変更によるリスクを緩和しています。
2002年には、海外の製薬企業として初めてR&Dセンターを開設。市場をより深く理解し、市場ニーズにもとづく製品開発ができるようになるとともに、海外の有名大学で学位を取った後、中国で働きたいと考えている優秀な中国人科学者の受け皿となり、競争優位を獲得しています。
さらには、中国政府衛生部や世界糖尿病財団と協働し、標準的な治療方法を定めるガイドラインを定めていますが、こうした標準作りも自社の競争優位を高めます。
同社が、医療従事者や患者の啓発活動を通じて、中国での糖尿病治療薬市場を創り出したことは、社会貢献活動というには、戦略的に過ぎるかも知れません。しかし、社会貢献活動は、戦略的に行うことにより自社の競争基盤を強化できること、“競争基盤を強化する”という視点を持つことにより、漫然と社会貢献活動を行っている企業に対する競争優位を確保できるということは、企業経営に携わる者としては、理解しておくべきものと考えます。
(参考)
The Blueprint for Change Programme: Changing diabetes inChina(by Novo Nordisk)
novonordisk.com/images/Sustainability/PDFs/Blueprint%20for%20change%20-%20China.pdf
Competing by Saving Lives: How Pharmaceutical and Medical Device Companies Create Share Value in Global Health (by FSG)
www.bsr.org/en/our-insights/blog-view/novo-nordisks-blueprint-for-changing-diabetes-in-china
CSRは儲けのネタになる? - 水上武彦のサステナビリティ経営論 | 2012.03.28 22:36
[...] www.cre-en.jp/mizukami-blog/?p=242 [...]
イノベーションの7つの機会とCSV - 水上武彦のサステナビリティ経営論 | 2012.11.28 17:57
[...] www.cre-en.jp/mizukami-blog/?p=242 [...]