効果的な利他主義とサステナビリティ

2016-08-08 01:54 pm

最も影響のある現代の哲学者と言われるピーター・シンガー著「あなたが世界のためにできるたったひとつのこと」は、寄付などの社会貢献活動をどう効果的に行うかの考え方が中心の書ですが、サステナビリティやCSRの推進を考えるにあたっての様々な示唆も提供してくれています。

ピーター・シンガーが提唱する「効果的な利他主義」は、個々人の喜びを増やし苦しみを減らすことで、社会全員の幸福の総和を最大にしようという考え方、最大多数の最大幸福を目指す「功利主義」に基づく考え方です。同じ金額を寄付するなら、より効果的に社会全体の幸福を増やす取り組みに寄付すべきという考え方で、これは、最近のソーシャルインパクト評価の潮流と合致しています。

しかし、「効果的な利他主義」の特徴は、「身近な人の命や幸せ・苦しみも、遠くの他人の命や幸せ・苦しみも同等に考える」、さらには「人間だけでなく動物の苦しみも考える」ところにあります。米国人にとっては、米国人の子供の命も途上国の子供の命も同等であり、高額な費用のかかる米国の集中治療室で、極小未熟児などを救うのに100万ドル寄付するのではなく、同額で1万人以上の命が救える途上国ではしかのワクチン接種の活動に寄付すべきという考え方です。また、米国で1人の人に盲導犬を提供するには400万ドルの費用がかかるが、予防可能な失明の一番の原因であるトラコーマの治療は1人あたり20から100ドルで収まり、1人のための盲導犬の費用で途上国の400人から2,000人を失明から守ることができるので、こちらを支援すべきという考え方です。

また、ピーター・シンガーは、動物の苦しみも考えるという立場で、仮に畜産動物の感じる苦しみが人間の10分の1だとしても、畜産動物保護を訴える活動は、費用対効果が非常に大きいとしています。ピーター・シンガーは、「ある存在が苦しみを感じることができる限り、その苦しみを考慮しないことは道徳的に正当化できない」と主張して、動物実験や工場畜産を強く批判しています。この考えが、動物の権利を主張するNGOなどの思想的根拠となっています。こうした思想的背景を知ることは、NGOなどとのエンゲージメントにおいて重要でしょう。

サステナビリティに関して、CSRなどの取り組みにおいては、通常「人類社会のサステナビリティ」を目的としますが、「知能・感覚を持つ存在、幸せや苦しみを感じることのできるすべての存在の最大多数の最大幸福を目指す」立場からすると、違う考え方もあり得るでしょう。最近話題になっている人工知能に関しても、「人類に友好的かどうかよりも、それ自身も含めて感覚を持つすべての存在の一般的な幸福を促すかどうかが重要」という考え方もあるようです。いろいろと考えさせられます。

個人的には、功利主義に基づく判断は単純すぎると考えています。「何が正義か?」「何を目指すべきか?」については、功利主義に加え、個人の自由や権利・義務を中心とするリバタリアニズムやリベラリズム、美徳や共通善を中心とするコミュニタリアニズムといった他の哲学思想も合わせて統合的に思考し続けることが必要でしょう。

wired.jp/2012/08/31/political-philosophy-wirelesswirenews/

しかし、効果的な利他主義は、出来るだけ多く稼いで、出来るだけ多く(かつ効果的に)寄付するといったライフスタイルなども含め、ミレニアル世代を中心として広く受け入れつつあるということです。CSRやサステナビリティの推進にあたっては、こうした現実や、様々な考え方があるということを認識しておく必要があるでしょう。

(参考)
「あなたが世界のためにできるたったひとつのこと」ピーター・シンガー著(NHK出版、2015年)

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