シェアード・バリューのエコシステム-コレクティブ・インパクトによるCSVの推進
Harvard Business Review(HBR)に、マーク・クラマー氏らの”The Ecosystem of Shared Value”というCSVの最新論文が掲載されています。内容は、コレクティブ・インパクトによるCSVの推進に関するものです。CSVとコレクティブ・インパクトについては、以前このブログでも紹介していますが、最新論文では、これをヤラ、ウォルマートなどの事例をもとに具体的に説明しています。
www.cre-en.jp/mizukami-blog/?p=2394#.V93yfSya3IU
「エコシステム」は、ビジネスにおいては、複数の企業および組織が、互いの強みを生かしつつ互いがメリットある形で連携し、新しい産業体系を構築するといった意味合いで使われます。「コレクティブ・インパクト」は、企業、政府、市民セクターなどが互いの強みを生かして社会問題を解決しようとするもので、社会問題解決のためのエコシステムの構築と言っても良いかと思います。CSVでは、特にビジネス環境/クラスターのCSV実践にあたって、不可欠なアプローチです。
今回の論文で中心的な事例として挙げられているのは、ノルウェーの世界最大の無機肥料メーカーヤラのタンザニアでのインフラ整備の取り組みとウォルマートが中心となっているクローズド・ループ・ファンドの取り組みです。今回は、ヤラの事例を中心にコレクティブ・インパクトによるCSVについて書きます。
www.cre-en.jp/mizukami-blog/?p=1323#.V937Qyya3IU
www.cre-en.jp/mizukami-blog/?p=1512#.V938ICya3IX
ヤラは、タンザニアの港湾からアフリカの小規模農家にアクセスしようとして、様々な障壁に直面しました。ヤラは、肥料を使うことで、飢饉に苦しむタンザニアの食糧生産性を上げることができると考えていましたが、港湾手続きの汚職による遅延、港湾と農家を結ぶ道路の未整備、冷蔵輸送設備がないための農作物の腐敗、農家が肥料を使うための教育不足、資金へのアクセスの欠如、不適切な政策など、様々な問題が障壁となりました。
これらの問題は、1社だけでは解決できないと考えたヤラは、多国籍企業、市民組織、国際支援団体、タンザニア政府など68組織を巻き込み、農業発展のための回廊地帯(インフラ等整備による都市間を結ぶ細長い人口密集地帯)をつくるための団体SAGCOT(Southern Agricultural Growth Corridor of Tanzania)を立ち上げました。世界経済フォーラム・アフリカで立ち上げられたSAGCOTは、34億ドルをかけて、港湾・道路・鉄道・電力等を整備、農業協同組合の機能化、関係業者・金融機関の誘致などを行っています。ヤラも6,000万ドルを投資しましたが、売上は50%、EBITDAは42%増加しています。
ヤラがイニチアチブを取ったSAGCOTは、タンザニアの農業発展のためのコレクティブ・インパクトです。一方で、ヤラのビジネス展開上の課題を解決し、売上・利益を拡大するCSVでもあります。コレクティブ・インパクト推進にあたっては、以前も書いたように5つの要諦がありますが、SAGCOTは、これらを押さえた取り組みとなっています。
www.cre-en.jp/mizukami-blog/?p=2394#.V94UzSya3IU
SAGCOTは、“タンザニアの農業発展”という、企業、政府、市民セクター、国際機関等などが共有できる「共通アジェンダ」を掲げ、道路・港湾といった全体のインフラ整備を冷蔵輸送設備や農作物の生産性向上よりも先に進める「評価を共有できる計画を策定」しています。また、政府が政策の見直しやインフラ整備、援助機関が一部のファイナンスと農業協働組合の設立支援、ヤラが港湾整備と農業ディーラー・ネットワーク構築への投資を担当するなど、「互いに強みを生かしで活動を補完」しています。毎年のダボス会議でのコミットメント、事務レベルでの年次フォーラムや、より頻繁な地域ミーティングなどを通じて「継続的なコミュニケーション」もしています。そして、タンザニア商工会議所の元会頭をCEOとする独立組織のSAGCOTセンターを「活動全体を支える組織」として設置し、ヤラが前面に出過ぎないようにしつつ、活動全体を進める仕組みを構築しています。
CSVを進める上では、企業と政府、市民セクターなどの共通課題を設定し、それをマルチステークホルダーで解決するといった構想力が重要となります。グローバル企業が進めるコレクティブ・インパクトの事例を学ぶことは、構想力を培う上で有効です。HBRの論文もそのために大いに参考となるでしょう。
(参考)
www.justmeans.com/article/new-in-harvard-business-review-the-ecosystem-of-shared-value
※CSV推進にご関心のある方は、mizukami@cre-en.jpまでご連絡下さい。
bizgate.nikkei.co.jp/series/007620/