サステナビリティでイノベーションを起こす:エネル

2017-05-18 08:40 am

Shared Value Leadership Summit 2017報告第3弾です。今回のSummitで企業事例として最も面白く、最もCSV的内容だったのは、イタリアの大手電力会社エネルです。以前にもブログで紹介していますが、経営に本格的にCSVを取り入れており、CSVに関するビデオを作ったりしています。

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なお、CSVを本格的に取り入れ始めたのは、子会社のエネルグリーンパワーですが、現在は、エネルグリーンパワーはエネルに統合され、エネルグリーンパワーのCEOだったフランチェスコ氏が現在はエネルのCEOとなっています。今回のSummitでは、フランチェスコ氏がビデオで参加し、マーク・クラマー氏とのパネルディスカッションを行いました。

エネルは、35ヶ国で事業を展開する売上800億ドルの企業ですが、将来的に100%再生可能エネルギーで電力を供給することにコミットしており、現在既に43%の電力を再生可能エネルギーで供給しています。

フランチェスコ氏は、サステナビリティがイノベーションをドライブすると考えていますが、その理由として、1. 電力業界ではイノベーションが求められていない、2. 世界にはエネルギーにアクセスできていない人たちが沢山いる、ことを挙げています。電力業界には、フランチェスコ氏がレガシーと呼ぶ既存資本があり、新しいことをしなくても当面は一定の利益が見込めます。財務的には、既存資本からキャッシュを生み出すほうが合理的であり、それが業界のイノベーションを妨げているということです。そこで、ビジネスにサステナビリティを組み込むことで、イノベーションを起こそうとしています。それが世界の新しいマーケットを拓くことにもつながります。

エネルでは、イノベーションを創出するために、所謂オープンイノベーションを推進しています。自社だけでイノベーションを起こすことはなかなか難しいとの認識のもと、外部のリソースを積極的に活用しています。外部リソースの活用にあたっては、企業買収、イノベーションが頻繁に起こるシリコンバレーやイスラエルなどへの拠点の設置、スタートアップ企業への投資など、様々なやり方を試していますが、現在は、業界・地理等に制限を設けず、各地の拠点やウェブサイトを通じて、必要な技術課題に対するソリューションを探索しています。ウェブサイトについては、世界中から提案を受け、専門チームが30日で評価しフィードバックする体制を構築しています。その他、”My Best failure”という失敗を奨励するコンペティションを実施し、チャレンジしてイノベーションを生み出す企業風土を醸成しています。

具体的な事例として面白かったのは、デンマークで、再生可能エネルギーのグリッドをバランスさせるために必要なバッテリーについて、EVを活用しようとしているものです。EVが多くの時間使用されていないことに着目し、エネルがユーザーにEVをリースなどで提供し、グリッドにつないでもらっています。EVユーザーにはその対価を支払っているようです。このモデルで、再生可能エネルギーの効率的なグリッドを通じて環境負荷を軽減し、エネルにビジネス価値をもたらし、EVユーザーもその恩恵を得るという三方よしを実現しようとしています。なお、このモデルの実現に必要なソフトウェアなどのテクノロジーも、米国のベンチャーや日本企業などから、オープンイノベーションで獲得しています。

最後にマーク・クラマー氏から、「エネルの活動は素晴らしいが、それでも株主からは資本の効率利用によるキャッシュの最大化、NGOからは現在まだ使用している石炭電力の早期停止といった異なるプレッシャーがあると思うが、どう対応しているのか?」という質問がありましたが、これに対するフランチェスコ氏の回答が秀逸でした。一言“To tell the truth”だそうです。自らの長期的な考え、想定しているロードマップを正直に伝え、その財務的合理性、現実的なサステナビリティの推進について理解してもらうことにつきる、ということです。

今後も注目すべき企業、注目すべきリーダーです。

※CSV推進にご関心のある方は、mizukami@cre-en.jpまでご連絡下さい。

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