「投資される経営 売買される経営」

2018-01-10 10:06 pm

統合経営に関する良書として人から紹介された、みさき投信CEO中神氏の「投資される経営 売買される経営」を読みました。投資家が企業をどのようにして評価しているかについて、多くの学びがありました。

まず「目から鱗」だったのは、一橋大の楠木健氏も解説で述べていますが、投資の世界の現実、投資家の生態と本性を示しているところです。投資業は「儲かる商売」というイメージがあり、私も高収入、高付加価値の事業だと考えていました。しかし、著書によると、投資家を理解するための出発点は、「投資事業は付加価値が薄い」ことだとしています。

ここで対象としている投資事業とは、上場企業の投資です。上場企業に投資する事業とは、誰もが買える上場株式を他の人と同じ値段で買い、他の人と同じ値段で売る。しかも、その株式に何ら加工・工夫を加えることができず、一定期間後に売る事業です。必然的に付加価値の低い事業とならざるを得ないのです。本質的に付加価値が薄いからこそ、レバレッジをかけ、機を見るに敏にならざるを得ず、短期の業績や株価に対して神経質となります。その結果、多くの投資家は、個別企業の経営の中身にそもそも関心を持っていないという現実が生まれます。経営者と投資家の対話が難しい所以です。

一方で、中神氏は、(日本には少ないとのことですが)長期投資家との対話の有用性を説いています。長期投資家は、様々な業界に対する知見、多くの経営に生かせる知見をたくさん持っています。長期投資家とのエンゲージメントを通じて、こうした知見をタダで使わせてもらうことで、経営を高度化できるのではないか、としています。

自身、企業の経営をしっかり見て、10社程度を選んで長期投資している中神氏は、長期投資に値する企業、持続的に業績を上げ続ける企業を見極める考え方を「みさきの公理」としてまとめています。みさきの公理は、V=(b×p)mで示されます。V(Value:企業価値)は、b(business:事業)とp(people:ヒト)の掛け算がベースとなり、その全体にm(management:経営手腕)がベキ乗でかかってくるという考え方です。「b」で重要なのは、独特の強みに根差した「障壁」を築いているかどうかです。「p」では、経営陣がHOP(Hungry, Open, Public)か、経営層に厚みはあるか、企業文化は健全化か、などを見ます。「m」は、事業戦略、事業ポートフォリオ管理、事業投資・撤退基準の設定、売掛金や在庫・買掛金を厳しく管理するキャッシュ・コンバージョン・サイクルの改善などの経営スキルや技能です。

中神氏は、日本企業は、優れた「b」や「p」を持っている企業が多いが、「m」への着目不足により、企業価値が長期的に低迷しているのではないか、としています。そして、長期投資家は、「b」や「p」については深い洞察を持っているわけではないが、業種や国境を越えた普遍性・適用可能性を持っている「m」については、多くの企業、多くの優れた経営手法・手腕を見ているので知見がある。経営者と長期投資家のエンゲージメントにより、経営者の「b」や「p」に関する知見と、長期投資家の「m」に関する知見が掛け合わされることで、大きな効果が生まれるのではないか、としています。

本書では、最後に、会社は主に3つの市場、「製品・サービス市場」、「労働市場」、「資本市場」と向き合っているが、これまで日本では、「資本市場との相互啓発」、経営者と投資家の相互啓発は、互いに無理解・無関心があり、建設的には行われてこなかった。だからこそ、ここに革新的な経営進化のチャンスが眠っているのではないか、としています。

日本版コポレートガバナンス・コードおよびスチュワードシップ・コード等で、「エンゲージメント」が提唱される中、非常に参考になる内容が多く含まれています。

(参考)
「投資される経営 売買される経営」中神康議著(日本経済新聞社、2016年)

※CSV推進にご関心のある方は、mizukami@cre-en.jpまでご連絡ください。

csv-jp.org/related_info.html

bizgate.nikkei.co.jp/series/007620/index.html

CSV戦略ポテンシャル診断サービス
「CSV戦略ポテンシャル診断」サービスページ

Copyright(c) 2012 Cre-en All Rights Reserved.