TCFDとエクソンモービルのシナリオ分析
パリ協定の影響は、かなり広がってきているように感じます。日本企業の方と話をしていると、現在でも、温暖化に懐疑的な意見もありますが、気候変動の原因や影響に関する科学的なファクト如何にかかわらず、世界は低炭素/脱炭素に向かっています。低炭素/脱炭素に向かう世界の潮流に先んじるくらいの意識がないと、新しい世界の枠組みの中で、日本企業のプレゼンス、競争力は低下します。
パリ協定に基づく世界の潮流の一つがTCFDなどによる情報開示の要請です。低炭素/脱炭素に向けて、経済や社会のあり方が変質していくことが確実となっている中、そうした変化に適応して、企業を持続的に経営していく備えができているかどうかは、投資家などの関心事になっています。
低炭素/脱炭素社会への変化の影響を受ける産業としては、金融セクターはもちろんですが、それ以外には、運輸、材料・建物、農業・食品、エネルギーなどがあります。運輸業界では、最近の欧州などでのガソリン・ディーゼル車全廃プランなどの移行リスクやシェアリングなども含むモビリティ革命への対応、材料・建物業界では、最終製品の温暖化排出削減に貢献する素材などの機会や原材料の供給面でのリスクへの対応、農業・食品業界では、原材料の調達に関わる物理的リスクへの対応などに対する長期的な戦略などを示すことが求められます。
エネルギー業界では、低炭素/脱炭素へのシフトは、再生可能エネルギー事業には大きな機会となりますが、化石資源関連事業には逆風です。特に、石油・石炭関連の企業は、将来への道筋を示すことが強く求められます。TCFDに基づく情報開示を行っている企業として、Eni、スタトイル、エクソンモービルが挙げられるのも、エネルギー関連企業の危機意識の表れでしょう。
TCFDの報告書では、「2℃或いはそれを下回る将来の異なる気候シナリオを考慮し、当該組織のレジリエンスを説明する」ことが推奨されていますが、エクソンモービルは、2℃シナリオ分析報告書を発表しています。
内容は、Sustainable Japanの記事にまとめられていますが、同分析報告書では、石油需要は長期的に減少していくものの、既存の油田の産油能力がそれ以上に低下するため、石油採掘への新規投資は必要であり、低炭素/脱炭素の動きが進んでも、エクソンモービルのビジネスには「ほとんどリスクがない」としています。
sustainablejapan.jp/2018/02/09/2018-energy-carbon-summary/30515
このシナリオを見て、「自社に都合の良い解釈をしているのでは?」と感じる人もいると思いますが、まずは、こうした企業としての見方を示すことが重要です。これをもとに、投資家その他のステークホルダーとエンゲージメントすることで、シナリオ分析も信頼性の高いものに進化していくでしょうし、企業自体の持続可能性も高まっていくでしょう。
(参考)
sloanreview.mit.edu/article/why-companies-should-report-financial-risks-from-climate-change/
※CSV推進にご関心のある方は、mizukami@cre-en.jpまでご連絡ください。
bizgate.nikkei.co.jp/series/007620/index.html