ノボ・ノルディスクのサステナビリティに向けた20年の歩み
ノボ・ノルディスクは、糖尿病ケアで世界をリードするデンマーク企業です。サステナビリティに向けた取り組みの先進企業としても知られており、ダボス会議で発表される「世界で最も持続可能な100社」で、1位を獲得しています。
そのノボ・ノルディスクが、最近、サステナビリティに向けた過去20年間の取り組みを纏めたレポートを発表しました。以下にレポートのポイントを示します。
【きっかけ】
ノボ社がサステナビリティへの歩みを始めたきっかけの一つは、1992年にリオデジャネイロで開催された地球サミットです。地球サミットへの参加を通じて、ノボ社は、環境保護をはじめとするサステナビリティに向けた取り組みの重要性を理解しました。
もう一つのきっかけは、当時のノボ社の主力商品であった酵素について、1988年にSustainAbility社が発行した”The Green Consumer Guide”で、洗剤に含まれる酵素が人体に害があると指摘されたことです。以前にも洗剤の酵素が消費者運動のターゲットになったことのあるノボ社は、既に十分な対策を取り問題を解決しているつもりだが、この問題は軽視できないとして、SustainAbility社創業者のジョン・エルキントン氏をノボ社の施設に招き、現場を良く見てもらうとともに、CEOが中心となって十分な対話を行いました。施設での2日間の滞在を通じ、ジョン・エルキントン氏は、洗剤の酵素に問題はないと判断し、”The Green Consumer Guide”を改訂しました。さらに、ノボ社のトップマネジメントとジョン・エルキントン氏は、サステナビリティに向けた歩みをともに進めることで合意しました。
【ステークホルダーとの対話】
ジョン・エルキントン氏との対話の後、1990年代を通じて、ノボ社は、ステークホルダーとの対話を企業文化として根付かせました。従来の投資家、顧客、規制当局といった狭い範囲のステークホルダーだけでなく、広く社会の声に耳を傾けるようになりました。
最初は、批判的なNGOとの対話には抵抗があったようですが、対話を重ねることにより、NGOとの協働がサステナビリティに向けた取り組みの大きなサポートとなることが明らかとなってきました。
NGOとの対話で、研究施設や生産施設のツアーの機会、ノボ社に関連するトピックスについての議論の場を積極的に提供した結果、ノボ社は、責任がありオープンな企業との評判がだんだん広がりました。1990年代後半になると、サステナビリティに関する課題が多様化してきため、一つの課題に対してじっくり話し合うラウンドテーブル形式が定着しました。
【レポートの発行】
ノボ社は、1994年に世界で最も早い段階で、環境報告書を発行しています。その後、社会面も含めた、社会環境報告書、サステナビリティレポートを発行するようになり、2004年からは、アニュアルレポートとサステナビリティレポートを統合した統合レポートを発行しています。ノボ社の統合レポートは、最近のレポーティングで財務面と非財務面を統合する動きの中で、非常に高い評価を得ています。
【途上国における医薬品へのアクセス】
2000年代に入ると、製薬企業として取り組むべき新しい課題が突きつけられました。
南アフリカ政府がHIV/AIDSなどの蔓延を防ぐため、製薬企業の特許権を制限し、安価なコピー薬の製造・販売を可能としようとしたところ、先進国の製薬企業が国際的な特許権の侵害としてそれを撤回させました。これが、国際的な批判を浴び、製薬企業として、途上国における医薬品へのアクセスの問題にどう取り組むかが新たな課題として突きつけられました。
ノボ社は、この問題に対してもステークホルダーとの対話を繰り返し、途上国の糖尿病を支援するための財団の設立、最貧国では先進国の20%以下の価格でインシュリンを提供するなどの対応を行うこととしました。
【サステナブルなビジネスに向けた5段階アプローチ】
それ以外にも、1997年には、サステナビリティに向けて、取り組むべき重点課題を特定する社内プロジェクトを実施し、生命倫理、人権など重点的に取り組むべき課題を明確にし、サステナビリティに向けたロードマップを策定。2006年には、2014年までに2004年を基準年としてCO2排出量を10%削減する目標を設定するなど、ノボ社は、サステナビリティに向けた取り組みを積極的に推進しています。
こうした活動を通じて、ノボ社は、サステナビリティに向けた5段階のアプローチを確立しています。
① マネジメントがサステナビリティを戦略的にプライオリティの高い活動と位置付ける
② 途上国における医薬品の提供のように、サステナビリティとビジネスを関係付ける
③ ノボ社が実施している監査やサーベイのように、サステナビリティを推進する明確なシステムとプロセスを確立する
④ ノボ社がバランス・スコアカード指標にサステナビリティを導入し、個人の評価や報酬と関連付けているように、成果を評価しマネジメントする指標を設定する
⑤ 財務とサステナビリティのマネジメントとレポーティングを統合する
ノボ・ノルディスクが、ステークホルダーの声に耳を傾け、他社に先んじてサステナビリティ課題に対応しているのは、長期的な世界の変化に予め準備し、適応するためです。世界の潮流を捉え、長期的な広い視野を持ってビジネスを展開するノボ・ノルディスクの動きは、これからも注目です。
(参考)
「20 YEARS IN THE BUSINESS OF SUSTAINABILITY」by novo nordisk