デュポンとフロン規制とCSV

2012-10-29 08:39 am

モントリオール議定書は、地球環境問題のベストプラクティスと言われます。

モントリオール議定書は、太陽光に含まれる有害な紫外線を吸収するオゾン層が、エアコンや冷蔵庫の冷媒として広く使われてきたフロンにより破壊されているとの研究結果を受けて、フロンを規制するために1987年に採択され、1989年に発効した議定書です。

地球温暖化防止に向けた動きを見れば分かるように、地球環境問題に対する国際的な合意を得ることは難しいものです。では、何故、オゾン層破壊という地球環境問題について国際的に合意が得られたのでしょうか。その背景には、企業の動きがあります。

フロンがオゾン層破壊の原因となっているということは、1970年代前半から指摘されており、その頃から、フロン規制の動きはありました。しかし、フロンの特許を持っていたデュポンをはじめ、フロンを製造していた化学メーカーは、当初、規制の導入に反対していました。

しかし、一方で化学メーカーは、フロン代替物質の研究開発を進めており、1980年代後半に入り、フロン規制の動きが活発になると、代替フロンの研究開発を加速させ、最終段階に入りました。

そこで、デュポンは、これまでの態度を180度転換し、フロン規制を支持するようになりました。そして、オゾン層保護を求める環境NGOとも連携し、国際的な規制を求めました。

そうした企業とNGOの動きを受けて、米国は、積極的にモントリオール議定書の合意に向けて交渉を進めました。このときは、最近の地球温暖化への対応とは逆で、米国が積極的で、欧州は消極的でした。しかし、最後には、米国は単独でも規制を実施し、規制を採用しない国からのフロンを使った製品の輸入制限を行うといった脅しまでして、モントリオール議定書の合意にこぎつけました。

その結果、デュポンは代替フロンのビジネスで大きな利益を得ています。

このデュポンの動きは、最終段階だけを見ると、社会にとっても自社にとっても良い規制の導入を促進しており、CSV*の取り組みと言えます。

ただし、その過程を考えると、その行動は、大儀や善意に基づくきれいなストーリーではありません。

NGOや政府が進めるフロン規制の動きを受けて、デュポンなどは、代替フロンの開発を加速させました。そして開発の目途が立った段階で、逆に規制の導入を働きかけています。そして、NGOや政府の動きと企業の動きが連動して、初めてフロン規制は導入されています。

しかし、このように自社の利益を追求することが、結果として社会に価値を生み出すことも重要です。「結果として社会に価値を生み出す」ためには、社会に対する感度を高く持つことが必要です。デュポンも社会の動きを敏感に捉えたからこそ、代替フロンの開発を加速させています。

企業の影響力が大きくなった現代では、政策決定においても企業がカギを握ることが多くなっています。企業は、社会にとっては良いが自社にとっては不利益となる規制導入の動きがあった場合、単に反対を唱えるだけではなく、社会の期待を理解し、その規制が自社にとっても利益となるような技術開発などを積極的に進めることが求められます。それが、CSVの考え方です。

*CSV(Creating Shared Value=共通価値の創造)については、以下を参照

www.cre-en.jp/mizukami-blog/?p=162

www.cre-en.jp/mizukami-blog/?p=319

www.cre-en.jp/mizukami-blog/?p=436

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