バリューが力を発揮するために

2012-11-05 09:03 am

以前にもこのコラムで述べたことがありますが、近年、企業の理念体系は、ミッション・ビジョン・バリューの3点セットで示すことが、グローバル・スタンダードになっています。

www.cre-en.jp/mizukami-blog/?p=348

このうち、バリューは、社員が持つべき価値観、行動規範を示すものです。バリューは、組織文化を醸成し、社員が同じ方向に向かって、組織として最大のパフォーマンスを発揮するために、極めて重要なものです。

バリューが力を発揮するためには、「バリューの言葉そのもの」「バリュー策定プロセス」「バリュー浸透プロセス」が重要です。

「バリューの言葉そのもの」については、自社らしさを表現しており、社員の心に響く言葉が望まれます。個人的には、ジャック・ウェルチ時代のGEバリューの4E、Energy(活力をもとう)、Energize(周りを元気付けよう)、Edge(困難な意思決定でも、明確に行おう)、Execution(実行して成果を出そう)は、全員がリーダーたろうとするGEの方向性を明確に表していると思います。

また、楽天の「常に改善、常に前進」「スピード!!スピード!!スピード!!」や、電通の「難しい仕事を狙え」「取り組んだら放すな」「周囲を引きずり回せ」などの鬼十則は、社員の心に響く言葉の強さを持っていると思いますし、トヨタの「改善」「現地現物」などは、自社らしさが出ていると思います。

バリューは、具体的で実際の行動に結び付けられるものであるべきですが、ここで例示したバリューは、社員がどう行動すれば良いかの明確な判断基準になっていると思います。

「バリュー策定プロセス」については、ジャック・ウェルチ氏は、「バリューに関しては全社員が発言の機会を持つべき」としています。多くの人が参加すればするほど、良いものができると同時に、多くの人から賛同を勝ち得ることができるということです。バリューは、社員一人ひとりが自らの判断・行動において心がけるものですので、多くの社員が納得し、自分ごとにしてもらう必要があります。

IBMは、2003年に新しいバリューを策定する際に、「バリューズジャム」という、全社員参加の3日間に亘るイントラネット上でのディスカッションを行っています。バリューズジャムでは、驚くほどIBMが持つべき価値観について社員の意見が一致していたそうですが、こうした社員を巻き込む試みは、社員の心を一体化させ、組織の一員として全員が同じ方向を向いていくためのバリューを創り上げるために、極めて有効です。

「バリュー浸透プロセス」については、トップマネジメントのメッセージ、社員カード、名刺への刷り込み、スクリーンセーバーの配布、研修・ワークショップの実施、表彰やイベント開催など、様々な方法があります。

「クレドー」というバリューが浸透している企業として有名なジョンソン&ジョンソンでは、毎年全世界の社員を対象にクレドーの実践度合いをチェックする「クレドー・サーベイ」を実施しています。その結果は、職場ごとに点数化され、どの部門がクレドーを遵守・実践しているかが明確になります。そして、その結果をもとに、各職場で議論し、問題点を明らかにし、アクションプランを策定し、期末に成果をレビューしています。こうしたプロセスを毎年繰り返し、クレドーを浸透させています。

ジョンソン&ジョンソンでは、人事評価にもクレドーを組み込んでいます。人事評価における目標の20%はクレドーに関する目標を設定しなければならないこととしており、社員に対し、クレドーの重要性を認識させています。

GEでは、GEバリューの評価と業績の評価のマトリックスで人材を評価しています。GEバリュー評価も業績評価も高い人材が望ましいのはもちろんですが、GEでは、業績評価が高くてGEバリュー評価が低い人材よりは、業績評価が低くてGEバリュー評価が高い人材のほうが望ましい人材と考えています。

バリューを本当に浸透させるためには、トップマネジメントが繰り返しバリューの重要性を訴えかけるとともに、人事評価など、組織のマネジメントシステムに組み込むことが必要です。

P.F.ドラッカーは、これからの社会におけるトップマネジメントの最大の仕事は、「組織としての個の確立」であるとしています。また、企業にとっての最大の課題は、「組織としての正統性の確立」としています。組織としての「個」と「正統性」を確立することが求められる時代にあって、自社らしさを表現し形作るバリューの果たす役割は益々重要になっています。

(参考)

「ウィニング 勝利の経営」ジャック・ウェルチ著(日本経済新聞社、2005年)

「IBMバリュー:終わりなき変革を求めて」サミュエル・J・パルサミーノ著(DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー2005年3月号)

「ネクスト・ソサエティ」P.F.ドラッカー著(ダイヤモンド社、2002年)

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