共益企業と新しいガバナンス

2012-11-14 10:01 pm

経済価値と社会価値を同時に追求する取り組みが、社会起業家を中心に世界中で始まっています。しかし、現在は、法律や税制の問題から、企業を立ち上げるときには、営利か非営利の二者択一を強いられます。

営利企業が社会問題や環境問題の解決に取り組み、非営利組織は持続可能なビジネスモデルの開発に取り組み、政府は市場原理に基づくサービスの提供に取り組む。このように従来の組織の境界線が曖昧になる中、第4のセクター「共益企業」が必要ではないかという議論が出てきています。

「共益(for-benefit)企業」は、事業所得を生み出すと同時に、明確な社会的使命を最優先に位置付ける組織です。これまでは、共益企業は、設立にあたって営利か非営利のいずれかを選択してきました。営利企業を選択した場合は、株主利益が求められる中、社会的使命を追求し続けることが担保されません。一方、非営利企業を選択した場合、事業を柔軟に展開して拡大していくことが難しくなります。

そこで、非営利組織のように社会的使命を追求しつつ、営利企業のように様々な製品・サービスを生み出し、雇用を創出し、経済を活性化する第4のセクターとしての「共益企業」が必要ではないかと考えられるようになっています。

そういた背景のもと、英国の「コミュニティ・インタレスト・カンパニー」、米国の「限定利益合同会社(L3C)」「ベネフィット・コーポレーション」「フレキシブル・パーパス・コーポレーション」など、共益企業を法的に認める動きが出てきています。

このうち「ベネフィット・コーポレーション」は、社会的責任のある行動の追及に対して、株主の攻撃から法的に保護された営利企業です。米国の7州で法的枠組みが制定され、パタゴニアなどが認定されています。

個別の社会問題に関しては、米国の医療保険に関して、「地域社会の運営による、地域社会重視の保険制度」(COOP:Community Operated and Oriented Plan)が創設されています。

COOPは、民間保険のように会員を増やし、保険料を請求し、利益を生み出しつつ、利益は、給付金の改善など会員の福祉向上という社会目的の推進に使われるよう設計されています。

個別企業が対応している事例としては、本ブログでも何度か紹介している、世界から糖尿病をなくすという使命から設立されたデンマークの製薬会社、ノボ・ノルディスクは、事業運営を担う上場企業を財団が管理しています。これにより、敵対的買収を逃れ、マネジメントは長期的視野に立って利益を社会的使命の追求に使うことができます。

企業としてCSV*を追求する場合、必要があれば、第4セクターの法的枠組みを利用することも可能になりつつありますし、ノボ・ノルディスクのように社会問題解決を追求しやすいガバナンス構造を構築することを検討しても良いでしょう。

経済価値と社会価値を同時に追求することが、新しいメガトレンドとして広まっていく中、それを促進する新しい制度や新しいガバナンス構造も必要です。時代が変わるときには、これまでのパラダイムを超える様々な試みがなされるダイナミズムが期待されます。

(参考)

「共益企業とは何か」ヒーラッド・サベティ著(DIAMONDハーバードビジネスレビュー2012年3月号)

*) CSV(Creating Shared Value=共通価値の創造)について

www.cre-en.jp/mizukami-blog/?p=162

www.cre-en.jp/mizukami-blog/?p=319

www.cre-en.jp/mizukami-blog/?p=436

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