自らルールを創り出すCSV

2012-11-26 09:18 am

「競争ルール」は、企業活動において重要な競争基盤です。私有財産権、公正な事業慣行などに関する基本的な競争ルールは、企業活動を円滑に実施するには不可欠です。それ以外にも、様々な規制、税制などが企業の競争に影響を及ぼします。

こうした競争ルールは、企業自らが創り出すことも可能です。例えば、以前ブログで紹介した「デュポンとフロン規制」などは、企業が影響力を及ぼして競争ルールを創り出した代表的な事例です。

www.cre-en.jp/mizukami-blog/?p=555

企業が競争ルールを自ら創り出すのは、基本的に自社にとってのメリットを求めてのことですが、競争ルールは、社会に受け入れられる必要があり、社会にとっても価値を生み出すCSV*でなければなりません。

海外の携帯電話企業は、成長著しいアフリカ市場の開拓にあたって、政府に働きかけて、携帯電話での銀行取引を可能とするモバイルバンキングのルールを創り出しています。アフリカでは、銀行は大都会にしかなく、銀行取引のために遠くまで歩いていかなければならない一方、現金を家に置いておくのは不安であるといった長年の悩みがありました。モバイルバンキングのルール作りは、この悩みを解決しつつ、アフリカでの携帯電話市場を拡大し、携帯電話会社も大きな利益を享受しています。

競争ルールには、条約や法令などのパブリックなもの以外に、企業やNGOなどによるプライベートルールもあります。代表的なものとしては、「海のエコラベル」と言われるMSC(Marine Stewardship Council)認証があります。MSCは、ユニリーバがWWF(世界自然保護基金)と協働して創り出した、持続可能な形で漁業と魚介類の調達を行っているサプライヤーを認証するスキームです。

1990年代後半に、大西洋カナダ東部のタラの漁場において、タラの漁獲高が全盛期の150万トンからわずか5万トンに落ち込みました。当時、この海域のタラを原料として加工食品を製造していたユニリーバは、危機感を抱き、自社事業の持続可能性を確保するため、WWFと協働してMSC認証のスキームを創り上げました。その後、ウォルマートが取り扱うすべての水産物を、MSC認証を受けたものとするなど、MSC認証の動きは、世界中に広まっています。

ユニリーバは、同様に、NGOと協働してパーム油に関するプライベートルールも創り上げています。パーム油は、食用油、マーガリン、石鹸などの原料として幅広く使用される世界で最も生産されている植物油です。

最近は、パーム油のプランテーションが熱帯雨林を切り開いて原生林を破壊しているとして、NGOなどの批判の的となっています。ネスレなどの競合企業は、パーム油の調達に関しNGOから批判にさらされ、持続可能なパーム油の調達を約束させられています。一方、いち早く、「持続可能なパーム油認証」制度を創り上げたユニリーバは、認証を受けた限られた原料を優先的に手に入れており、競争優位を確立しています。

こうしたプライベートルール作りは、社会にとっても、自社にとっても価値を生み出すCSVとなっています。

気候変動問題に対応するCO2排出の削減、自然エネルギーの普及、高齢化問題に対応する健康的な食品や生活習慣の普及などにあたっては、企業がイノベーティブな製品・サービスを開発するだけではなく、その普及を促進するルール作りも重要です。

社会問題を解決するルール作りにあたっては、もちろん政府の役割も重要ですが、企業のほうも、“自らルールを創り出す”視点を持って、政府、他企業、NGOなどと協働していくことが期待されます。

(参考)

「競争戦略としてのグローバルルール」藤井敏彦著(東洋経済新報社、2012年)

*CSV(Creating Shared Value=共通価値の創造)については、以下を参照

www.cre-en.jp/mizukami-blog/?p=162

www.cre-en.jp/mizukami-blog/?p=319

www.cre-en.jp/mizukami-blog/?p=436

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