3人目の石切り職人を創り出す

2012-12-03 09:04 am

経営人材について語る有名な寓話として、「3人の石切り職人」の話があります。

旅人がある町を通りかかりました。その町では、新しい教会が建設されているところであり、建設現場では,3人の石切り職人が働いていました。その仕事に興味を持った旅人は、1人の石切り職人に尋ねました。「あなたは、何のためにこの仕事をしているのですか?」

その問いに対して、石切り職人は、何を当たり前の事を聞くのだと、不愉快そうな表情を浮かべ、ぶっきらぼうに答えました。「生活をするために決まっているじゃないか。俺には食べさせないといけない家族がいる。そのために金を稼がないとな!」

旅人は、2人目の石切り職人に、同じ事を尋ねました。「あなたは、何のためにこの仕事をしているのですか?」その問いに対して、石切り職人は汗を拭いながら、こう答えました。
「この大きくて固い石を切る為に、一生懸命努力しているのさ。腕を上げて、いつか村一番の職人になるんだ!」

旅人は、3人目の石切り職人に、同じ事を尋ねました。「あなたは、何のためにこの仕事をしているのですか?」その問いに対して、石切り職人は、目を輝かせ、こう答えました。「ええ、いま、私は、多くの人々の安らぎの場となる素晴らしい教会を造っているのです。」

企業など実際の組織においても、この3つのタイプの人材は存在するでしょう。「お金のために(仕方なく)」働く人、「自らの成長や、専門性を発揮し認められるために」働くひと、「仲間とともに、自らと組織の目的を実現するため」に働く人、それぞれいると思います。

組織経営の視点からすれば、如何に3人目の人材を創り出すかが重要です。1人目の人材は、仕事のへの取り組みが受身になりがちで、リーダーシップや創造性の発揮は余り期待できないでしょう。2人目の人材は、実際に優れた能力を持ち、組織の方向性とうまくはまれば、高い成果をあげることができます。しかし、自らの専門領域を超えて仕事をする意識は少ないでしょう。また、「個人」の視点で仕事をしている以上、組織の方向性とずれてしまうリスクが常にあります。組織で働く人材としては、最低限、組織の目的を共有する必要があります。強い組織を創り上げるには、組織の目的に共鳴して高いモチベーションを発揮する3人目の人材を、出来る限り多く創り出すことが必要です。

高い視点をもって仕事をすることにより、リーダーシップや創造性が発揮され、仕事の品質も違ってきます。2人目の人材のほうが、美しく形の整った石を造るかもしれません。しかし、3人目の人材は、教会を造り上げるとの目的のもと、全体の構造の中からあるべき石の形を考えたり、さらには、自らの職務を超えて、石の材料や石の組み上げ方などをいろいろと考えて、その実現のために、他者を巻き込んでいきます。

働いている人の立場からしても、「仲間とともに、自らと組織の目的を実現するため」に働いているときが、一番充実しているのではないでしょうか。

3人目の人材を創り出すには、組織のミッション、ビジョン、バリューを徹底的に共有することが必要です。まずは、採用、昇進などの場面で、組織の目的・価値観との親和性をしっかり見ることが大事です。また、組織が何を目的としているのか、どのような社会的価値を生み出すために存在しているのかを実例などをもって伝え、実践している人材に脚光をあてることなどが求められます。そのためには、象徴的なCSV*活動を実践したり、CSRレポートをはじめ、様々な媒体で、一貫したメッセージで、社員とコミュニケーションし続けることが必要です。それも、CSR/CSVマネジメントの一つの役割です。

なお、新卒一括採用、終身雇用といった現在の日本の雇用慣行の中では、組織の目的と自らが職業として追求したいものとが異なることとなってしまうケースも多いと思います。そうすると1人目の石切り職人タイプが増えてしまいがちです。日本社会全体としても、人材の流動化をさらに高めたり、年齢を問わず人材が新しい仕事にチャレンジできる環境を整備、風土を醸成し、3人目の石切り職人を創り出していくことが求められます。 

*CSV(Creating Shared Value=共通価値の創造)については、以下を参照

www.cre-en.jp/mizukami-blog/?p=162

www.cre-en.jp/mizukami-blog/?p=319

www.cre-en.jp/mizukami-blog/?p=436

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