パタゴニアと持続可能な消費
昨年発効した社会的責任に関するガイダンス規格ISO26000に規定される、すべての組織が取り組むべきとされている7つの中核主題の1つ「消費者課題」の中に、「持続可能な消費」という課題があります。過度な消費を抑制し、持続可能なレベルで製品および資源を消費するよう促すというものですが、自社製品・サービスの売上拡大を至上命題とする企業にとっては、どう取り組んで良いのか難しい課題です。
この「持続可能な消費」に関して先進的な取り組みをしているのが、パタゴニアです。
昨年のクリスマスセールの幕開けとなる感謝祭明けの11月第4木曜日、パタゴニアは、ニューヨークタイムズに「DON’T BUY THIS JACKET」と題した持続可能な消費を呼びかける広告を掲載しました。「自社の商品を買う前に少し考えて下さい。無駄な消費はすべきではありません」と訴えかける驚くべき広告です。
パタゴニアは、また、「コモンスレッズ・イニシアティブ」という、以下のような誓約を50,000人から集めることを目指した活動を実施しています。
・パタゴニアは長持ちする有益な製品、壊れても修理可能な製品、そしてその有益な寿命を全うした末にはリサイクル可能な製品を製造することを誓います。
・私(消費者)は必要な(そして長持ちする)ものだけを購入し、壊れたものは修理し、不要となったものは再利用(シェア)し、これができなくなったものはリサイクルすることを誓います。
実際の事業活動としても、イーベイと組んで、パタゴニアの中古商品を取引するマーケットプレースを提供したりしていますが、こうした動きは、できるだけ多くの新商品を販売し売上を拡大するという、通常のビジネスの感覚からすれば、考えられないことです。
しかし、パタゴニアにとっては、こうした活動は合理的なものです。
パタゴニアは、登山用品、サーフィン用品、アウトドア用品など、人々が自然と親しむときのウェアを提供する企業です。必然的にパタゴニアの顧客は、自然に対する感度が高い傾向にあります。また、最近の環境問題への関心の高まりから、一般にも環境に良いモノを購入したいという消費者は増える傾向にあります。
そうした中で、「最高の製品を作り、環境に与える不必要な悪影響を最小限に抑える。そして、ビジネスを手段として環境危機に警鐘を鳴らし、解決に向けて実行する。」というミッションステートを掲げ、「環境」を軸とした行動を一貫して実践することは、強いブランドを作り上げ、顧客のロイヤルティを高めることになります。
また、初期の価格は少し高くても、長持ちし、修理等サービスが充実している製品を購入するほうが、ライフサイクルで見てリーズナブルだと考える消費者も多いのでしょう。非上場のため数字は非公開ですが、パタゴニアの売上は、リーマンショック後伸びているようです。
なお、パタゴニアは、「社員をサーフィンに行かせよう」と精神のもと、勤務時間中にいつでもサーフィン(スキーなど何でも良い)に行っても良いという完全フレックスな勤務体系を取っている点でもユニークです。パタゴニア創業者のイヴォン・シュイナード氏は、この狙いとして以下の5つを挙げています。
①「責任感」:社員1人1人が責任を持って仕事をすること。いつサーフィンをし、いつ仕事をするかなどを上司にお伺いを立てることなく、自ら責任を持って判断できるようになること
②「効率性」:自分が好きなことをいつでも思いっきりやれる状況にあれば、仕事もはかどる。サーフィンに出かける前には、集中して仕事ができること
③「融通をきかせること」:いい波は何時来るか分からないので、いつでもサーフィンに出かけられるように、常日頃から生活や仕事のスタイルをフレキシブルにしておく必要があること
④「協調性」:社員が互いの都合を尊重し、お互いにサポートし合うようになること。誰かがサーフィンに出かけているときにサポートできるよう、誰がどういう仕事をやっているか周囲の人が理解し、お互いに助け合えること
⑤「真剣なアスリートの雇用」:いつでもスポーツができる状況であれば、真剣なアスリートとしても働きやすい。アウトドア製品を開発・製造している企業として、自然やアウトドアスポーツに深い経験と知識を持っている真剣なアスリートを雇用する必要があること
このようにパタゴニアはユニークな会社ですが、少なくとも感性に訴えかける商品を販売している企業にとっては、ブランディングや社員活用の面で、大いに参考になるのではないでしょうか。