市場の新しい常識を創るCSV ダイキン工業の事例

2013-02-06 09:38 pm

CSV*の3つの基本アプローチの1つ「競争基盤/クラスターのCSV」は、自らの事業を進めやすいように社会を良い形に変えるものです。その方法の一つとして、市場において社会に役立つ知識を広め、需要を創造するやり方があります。

デンマークの糖尿病治療薬をコア事業とするノボ・ノルディスクが、新しい市場に進出するにあたり、糖尿病との正しい付き合い方に関する知識を普及する活動を実施。糖尿病患者が過ごしやすい社会を創りつつ、自らの事業の発展させている例などが典型です。

空調総合メーカーのダイキン工業は、中国市場でのルームエアコン事業で「競争基盤/クラスターのCSV」を推進しています。

ダイキン工業の強みとして、省エネ効果の高いインバーター技術があります。しかし、インバーター機はノンインバーター機に比べ2~3割コストが高く、世界での普及が遅れていました。

ダイキン工業の井上社長は、インバーター技術を省エネ技術の世界標準にしようと考え、そのために、ルームエアコンの生産量が世界一の中国で、インバーターを環境技術の柱として普及させようと考えました。

井上社長は、中国の空調最大手の珠海格力電器と提携、インバーター技術を開示しました。そして、格力の低コスト生産のノウハウを生かして比較的低コストのインバーターエアコンを販売しました。格力が採用したことで他社も追従し、中国市場でのインバーター比率は、格力の提携前の7%から約60%に上昇しました。

ダイキン工業のインバーター技術は、これまでブラックボックス化してきたコア技術であり、格力へのインバーター技術の開示については、技術陣の猛反発がありました。しかし、井上社長は、インバーター技術を広め、デファクトスタンダードとすることを優先しました。

今では、中国市場において、エアコンと言えばインバーター機という新しい常識が創られています。「エアコンは価格だけでなく省エネも重要」「省エネといえばインバーター」という知識を普及させ、CO2排出削減など環境問題の解決に貢献するとともに、自社のエアコン事業を成長させるという「競争基盤/クラスターのCSV」を推進したと言えるでしょう。

ダイキン工業は、空調の冷媒に関する取り組みについても競争基盤/クラスターのCSVを推進しています。

地球温暖化抑制の観点から、空調の次世代冷媒の選定は、世界的な関心事になっています。ダイキン工業は、世界で唯一、空調と冷媒の両方を手がけるメーカーとして、「HFC32」という新冷媒がルームエアコンに最も相応しいと判断しています。

ダイキン工業は、「HFC32」を新冷媒のスタンダードとするため、環境問題や空調関連の国際的会議に頻繁に出向き、様々なデータを示しながらHFC32の優位性を説明しています。また、国際機関の関係者や各国の政策担当者、オピニオンリーダーらとの交流を深め、必要な情報提供等を行っています。さらにダイキン工業では、HFC32搭載のルームエアコンを他社に先んじて開発し、基本特許の無償開放などを行っています。

このような活動によって、温暖化係数が低い冷媒であるHFC32への転換が進むことは、地球環境にとっても良いことですし、HFC32搭載のルームエアコンを開発しているダイキン工業にとっても良いことです。競争基盤/クラスターのCSVの好例と言えるでしょう。

自らの事業を進めやすいように社会を良い形に変えるCSV。新しい常識、新しいスタンダードを創ることは、日本企業がこれまで苦手にしてきた取り組みかも知れません。しかし、良い社会を築くという志を持って、もっと戦略的に進めていける可能性のあるものだと思います。

(参考)

「井上礼之の経営教室第3回技術で勝ち、事業でも勝つ」日経ビジネス2013.1.21号

*「CSV(Creating Shared Value=共有価値の創造)」については、以下を参照

www.cre-en.jp/mizukami-blog/?p=162

www.cre-en.jp/mizukami-blog/?p=319

www.cre-en.jp/mizukami-blog/?p=436

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