ステークホルダーの優先順位
CSV/シェアード・バリュー推進の優良企業ユニリーバは、ステークホルダーの優先順位を消費者、顧客、従業員、サプライヤー、コミュニティとし、これらステークホルダーへの責任を果たせば、株主も利益を得られるとしています。
多くの企業は、顧客、従業員、取引先、地域社会、株主・投資家などの重要ステークホルダーを定めていますが、優先順位を明確にしている企業は限られます。重要ステークホルダーを定めている企業では、CSRのフレームワークなどにおいてステークホルダーをどう配置するか、CSRレポートなどでステークホルダーをどの順序で記述するかを考えており、そこでは、CSR担当者などのステークホルダーに対する考え方、優先順位が反映されています。しかし、多くの場合、その優先順位は十分検討されたものではなく、社内でも必ずしも共有されていません。
社内外でステークホルダーの優先順位を共有するには、それを明示する必要があります。もちろん優先順位をつけないという考え方もありますが、ステークホルダー間の利害が対立した場合にどう考え、どう対応するのかは、共有しておく必要があります。
このステークホルダーの優先順位が良い形で現れたのが、ジョンソン&ジョンソン(J&J)のタイレノール事件での対応です。J&Jは、その企業理念であるクレドにおいて、自社の第一の責任は、医師、看護師、患者、そして母親、父親をはじめとする、すべての顧客に対するものであるとしています。そして、第二の責任が全社員、第三の責任が地域社会、第四の責任が株主に対するものであると、ステークホルダーの優先順位を明確にしています。
1982年にJ&Jの頭痛薬タイレノールに毒物が混入され、服用者7人が死亡するというタイレノール事件が発生したとき、J&Jの経営陣は、「顧客に対する責任を第一とする」というクレドに基づき迅速な意思決定を行い、大きな損失を覚悟で、マスコミを通じて大々的に注意喚起と全商品の回収を呼びかけ、商品回収を徹底して行いつつ、毒物の混入を防ぐ新しいパッケージの開発を行いました。結果として、タイレノールの売上もすぐに回復し、J&Jは、それまで以上の高い信頼を顧客から得ることとなりました。
どのステークホルダーを最優先とするか、ステークホルダーの利害が対立するときにどう対応するか、それを社内で共有することは、経営上の意思決定に違いを生み出します。時にそれは、企業の命運を分けることとなります。