ライブラリ

知見・事例

企業はSDGsにどのように向き合うべきか

冨田 洋史
(株式会社クレアン 統合報告支援グループ コンサルタント)

2015年9月25日、ついに「持続可能な開発のための2030年アジェンダ」が国連の場で193の構成国のリーダーによって採択され、2030年に向けたSustainable Development Goals(SDGs)が確定しました。

このSDGsの性質と、企業がどのように向き合うべきかについて述べさせてもらいます。

SDGsとは何か

SDGsはその名前のとおり、持続可能な開発を私たちがしていくうえで達成しなければならない目標で、17の目標と、169のターゲットで構成されます。貧困、飢餓、健康、教育、ジェンダー平等、水、エネルギー、ディセントワーク、平等、持続可能な街づくりなど、包括的なテーマを扱っています。そもそもの源流として、ミレニアム開発目標の後継目標とリオ+20で策定することが決まった持続可能な開発のための目標をあわせたものであるため、経済、社会、環境のすべてのテーマを取り扱っています。169のターゲットを図るための指標は、2016年3月までに決定する予定ですが、その数は600、1000にも及ぶとの見方もあります。

特に、SDGsの特徴として挙げられるのが、この目標がすべての国やアクターに対してのものであるということです。これまでのミレニアム開発目標のように、発展途上国のための目標ではなく、日本を含めた先進国も自国内での活動が求められます。また、グローバルパートナーシップが強調され、この目標の達成のために、政府だけでなく、市民社会や企業の参加も求められています。

リスクとしてのSDGs

まず、こうした課題のセットをリスクとして検討する必要がありあす。これまでどおり、気候変動や生物多様性・海洋資源の減少が将来の経営資源に大きな影響を及ぼすことは言うまでもありません。そうした課題に加え169ものターゲットを示してくれていますので、それぞれが事業の持続性に影響を与えるかどうかを検討する必要があります。それに加え、こうしたSDGsの設定により社会的な課題が事業の制約条件を変更する可能性も大きくなりました。例えば、農業補助金の廃止、飲酒の有害な摂取の防止、交通事故による死傷者の半減、研究開発者の大幅な増加といったようなSDGsが目指すターゲットは関連企業の事業に大きく影響を与えるだけでなく、場合によっては展開している国の法制度を変える可能性もあります。これは途上国だけでなく、日本でも同様で、現在、日本でもこれまでの議論を踏まえ、関係省庁が今後の対応を検討しています。

機会としてのSDGs

一方で、この変化を機会として捉えることも重要です。2014年に国連に提出されたレポートによれば、SDGsを達成するためには、関連するインフラ投資だけでも年間5~7兆米ドルもの金額が必要とされています。また英エコノミストは、世界のGDPの4%もの費用が必要になると試算。つまり、このSDGsへ対応するためのビジネスは、大きな事業機会となりえるということになります。利益を上げながら社会課題を解決するCSVなどが企業評価を上げる現代において、こうした機会を見捨てておくことはできません。

企業は何をするべきか

しかし、この169にも及ぶターゲットを前に企業はどのようにアプローチするべきなのでしょうか。まだ採択されたばかりではあるためその点は不明確ですが、取り組みが本格化する2016年を前に、まずは次の3つの点に取り組むことをお勧めします。

企業は何をするべきか

しかし、この169にも及ぶターゲットを前に企業はどのようにアプローチするべきなのでしょうか。まだ採択されたばかりではあるためその点は不明確ですが、取り組みが本格化する2016年を前に、まずは次の3つの点に取り組むことをお勧めします。

1. 事業とSDGsの関係性を整理する

まず、事業とSDGsの関係性を整理しましょう。自社のバリューチェーンを確認したうえで、それぞれの目標・ターゲットが影響を及ぼすかどうかを確認します。そして、すでに取り組んでいる活動もまとめると今後の対策を打ち出しやすくなるでしょう。すでに欧州の企業は作業を進めていて、例えばエリクソンは、17の目標に対してICTの役割を洗い出し、自社の現在の活動をまとめています。また、SDGsの策定に積極的にコミットをしていたユニリーバはどのように自社が貢献できるかについての報告書を近日中に公開するとしています。

2. 優先順位を決める

2点目は、その中で特に自社のビジネスに影響度の大きいものを特定しておくことです。この作業が最も難しい作業ですが、その参考となる手法をGRI、グローバルコンパクト、WBCSDがSDGs Compassとして採択にあわせて公開しています。こうした、ツールを最大限に活用することが重要ですが、一方でこれまでのようにCSR部がつくる、CSRのマテリアリティと同様のものと考えてはいけません。企業の持続可能性という文脈で捕らえるためにも、事業への影響度を吟味し、取締役会など経営陣が意思決定をしていく必要があるでしょう。

3. 取り組みを報告する

3点目は、SDGsに関連する取り組みをSDGsのコンセプトとあわせて報告をすることです。そもそもターゲット12.6は企業に対して「持続可能な慣行を導入し、定期報告に持続可能性に関する情報を盛り込む」ように促しているという点では、この3点目がまず企業が取り組むべきこととなります。また、そうした報告自体がSDGsの社外・社内への啓発になり、活動を向上させることにつながります。そして何よりも、しっかりとしたコミュニケーションをとることが最終的にはレピューテーションの向上へとつなげることになるのです。

SDGsが採択されても、実際にこの目標へのアクションが開始されるのは2016年1月からです。しかし、本格的な動きを待っているだけではいけません。今回のSDGs採択の意味することは、問題がさらに深刻化する前に、一刻も早くその変化を自分ごとと捉え、向き合っていくことを求められている、ということなのではないでしょうか。