知見・事例
GRIスタンダードに関してのQ&A
回答者:冨田 秀実 様
(ロイドレジスタージャパン株式会社 取締役 事業開発部門長)
2016年11月24日、株式会社クレアン主催セミナーでのQ&Aを元にクレアンにて作成しました。今後GRIスタンダードを活用していく上で、ご参考にしていただければと思います。
GRI スタンダードとは?
Q:G4とGRIスタンダードの大きな違いは何ですか。
A:GRIスタンダードは、G4の主要なコンセプトと開示項目は踏襲していますが、「モジュール構造」となった点と「報告要求事項の明確化」がなされた点がG4からの一番の変化点です。
Q:GRIスタンダードのモジュール構造とはどういうことですか。
A: GRIスタンダードは、すべての組織に適用される3つのUniversal Standardsと、各組織がマテリアルな課題を選択的に使用する33のTopic-specific Standards(経済、環境、社会に区分)から構成され、今後は、全体の見直しではなく、モジュール単位(各standard単位)で見直しが可能になる構造になったということです。
モジュール構造形式の導入の背景としては、世界的な非財務情報開示のニーズの高まりを受け、開示基準をフレキシブルにアップデートできるようにする必要性が高まってきたということがあります。
ただし、モジュール構造への変化は、報告書作成そのものに与える影響は、ほとんどありません。
Q:GRIスタンダードの報告要求事項の明確化とはどういうことですか。
A:G4までは、開示項目をどこまで厳密に開示するべきか曖昧でしたが、GRIスタンダードでは33のTopic-specific Standardごとに、必ず報告しなければならない"Reporting requirements"と報告することが望ましい"Reporting recommendations"が明確に区分されたということです。今後は、準拠をするためには、"Reporting requirements"に合致した内容を報告することが必須になります。
Q:現在のG4はいつまで有効なのでしょうか。
A:2018年7月1日以降に発行される報告書は、GRIスタンダードを使うことが求められるため、G4が有効なのはそれまでで、それ以降G4は廃止になります。
GRIスタンダード準拠について
Q:G4に準拠して報告書を作成している場合、GRIスタンダードになることで新たに開示が求められることはありますか。
A:G4からGRIスタンダードへの移行において、新たな課題項目の追加はありません。(いくつかの項目で統廃合、移動等はあります) ただし、"Reporting requirements"の明示、バウンダリーの明確化の要請強化、マネジメントアプローチにおける救済メカニズム(Grievance mechanism)の追加など、G4で用いられていたコンセプトが、GRIスタンダードの中でより明確化・厳密化された部分があるので、それらの点について現状の報告内容のチェックをした方がよいと言えます。
Q:GRIスタンダードに準拠しない場合に想定されるリスクはどのようなことでしょうか。
A:各国の証券取引所やEU加盟国が、準拠を要求してくることが将来的には想定されます。これを受けて特に海外の企業は準拠への動きを活発化させていくことも想像できますので、準拠した企業とそうでない企業との非財務情報の開示格差が生まれ、投資家からの評価にも差が生まれやすくなることはあり得ます。さらに、顧客よりサプライチェーンマネジメントの一環として、準拠の要請が高まる可能性も考えられます。
Q:GRIスタンダード化に伴い、報告書の外部保証の必要性は高まるのでしょうか。
A:GRIスタンダード化の背景として、非財務情報の比較可能性を高めることが前提としてあるため、パフォーマンスデータの正確性を裏付ける外部・第三者機関による保証を、企業に要請する社会のニーズは高まっていると言えます。
GRIスタンダード化で"Reporting requirements"で何を開示すべきか明確になったこともあり、「GRI準拠への保証」事例も今後は増加することが予想されます。 また、マテリアリティ策定プロセスに関する保証も今後増えていくことが考えられます。保証のポイントとしては、(1)ビジネスプロセスが加味されているか、(2)経済/環境/社会の側面からインパクトを評価しているか、(3)ステークホルダーの関心が洗い出されているか、という3つの観点が挙げられます。
Q:G4での現在における準拠状況について、どのような評価をされていますか。
A:厳密な意味においてはG4に準拠できている企業は数パーセントという認識です。海外の企業に見られる、対照表において項目ごとに"Full""Partial"を示す方法からは、企業の開示への姿勢を読み取ることができると感じています。
その他、事例等
Q:GRIへの対応を契機にCSR取り組みがよい結果を生んだと感じる事例はありますか。
A:日本のCSRはG2(2002年発行)をきっかけに進んだと認識しています。G2による開示要請が、日本企業におけるCSRマネジメントの構築に影響を与えたのではないかと思います。
Q:日本のパブリックコメントの際に、意見が集中したG4-E-27(環境製品・サービス)の復活について、結局復活がなされなかったのは、どのような理由からでしょうか。
A:G4では、「課題に関する項目」と「プロセスに関する項目」とが混在していましたが、GRIスタンダードでは「課題に関する項目」に統一されました。その結果、G4-E27はプロセスに関する項目だったため、削除されたという経緯があります。
ただし、サプライヤーアセスメントについてはプロセスに関する項目ですが、GRIスタンダードでも残っています。これを削除してしまうと、企業が全く開示を行わなくなってしまう可能性が、現時点ではあると判断したためです。
Q:パブリックコメントで、意見が集中した箇所はありますか。
A:ポジティブな意見が大半でした。課題として挙がっていたのは、ナンバリングの問題やSRSという名称の問題でした。これらは意見を受けてドラフトの形から現在の形に変更しました。
Q:今回のGRIスタンダードの発行時に今後への積み残し課題として位置づけられた内容はありましたか。
A:「労働安全衛生」や「人権」については、今後の見直しの中で優先順位が高いと考えられています。また、「準拠の考え方」をどのようにするべきかについても、今後実際に発行される企業のレポート事例をGRIがレビューし、検討していくことになると思われます。
Q:非財務情報の開示に関する読者ターゲットをどのように考えるのがよいのでしょうか。
A:企業の業種・業態によって異なるが、専門性を持つ方向け、専門性を持たない方向けという区分は基本的に必要だと言えます。そのような意味でB to Bの企業は、専門性を持つ方向けだけでよいかもしれません。一方でB to Cの企業は、専門性を持つ方と持たない方向けそれぞれに、媒体を分ける必要があることが多いです。
開示義務のある財務情報の報告に非財務情報も加えていこうとしているヨーロッパの統合報告書の流れに比べ、日本の統合報告書は、自主的な報告であるアニュアルレポートに非財務情報を加えようとしており、アニュアルレポートのアップデート版と言え、世界的には特殊な傾向を示しています。そのような流れの中では、日本の場合、統合報告書を社員向けに作成することや、複数の媒体の入り口として位置づけることは有効だと考えます。