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知見・事例

サステナビリティ情報開示媒体の動向調査2025
~100社調査の結果から見るサステナビリティ開示の動向と媒体使い分け

冨田洋史
(代表取締役社長/コンサルタント)

サステナビリティ情報開示の重要性は年々高まっています。これに伴い、有価証券報告書、統合報告書、サステナビリティ報告書といった複数の媒体でその内容と表現方法が進化しています。さらに、2027年3月期からは時価総額3兆円以上の企業を対象に、有価証券報告書でSSBJ基準の適用が始まります。そのため、媒体ごとの使い分けがますます必要になってきています。本記事では、株価時価総額上位100社の媒体の使い方に関する調査結果を基に、サステナビリティ情報開示に関する動向や、実務に役立つ使い分けのヒントを解説します。

サステナビリティ情報開示の重要性と多様性

企業の持続的成長や社会的信頼の獲得には、サステナビリティ(持続可能性)に関する情報開示が不可欠です。ここ数年で、法定開示としての有価証券報告書、企業価値や戦略を語る統合報告書、そしてESG評価機関や多様なステークホルダー向けのサステナビリティ報告書など、開示媒体が充実してきました。それぞれの媒体には異なる役割や読者が存在し、情報の重複や使い分けが大きな課題となっています。

比較項目 有価証券報告書 統合報告書 サステナビリティ報告書
開示義務 義務(金商法) 任意 任意
発行時期 事業年度末から原則3か月以内 任意 任意
参照が多いガイドライン SSBJ
TCFD
Integrated Reporting Framework
価値協創ガイダンス
GRI Standard
想定される読者 株主・投資家 資本提供者を主とするステークホルダー(社員、顧客、取引先など) 幅広いステークホルダー(特にESG評価機関、社員、顧客・取引先、NPO/NGO、学生など)
サステナビリティに関する主な情報 業態や経営環境等を踏まえ、重要であると判断した具体的なサステナビリティ情報(特に気候変動、人的資本) 中長期の価値創造に関する社会課題および必要な非財務資本に関する情報 バリューチェーンを通じて社会や環境に依存または影響を及ぼすテーマに関する情報

各媒体におけるサステナビリティ情報開示の動向

クレアンでは、時価総額上位100社(2025年3月時点)の企業における2025年度の有価証券報告書、統合報告書、サステナビリティ報告書の媒体の使い方を簡易的に調査し、その傾向を分析しました。

① 有価証券報告書~情報量の増加

有価証券報告書では「サステナビリティに関する考え方及び取組み」セクションが設けられ様々な記載が求められるようになってきました。当然、結果として80%以上の企業が情報量を増やしており、ページ数はこの3年間で約2倍に増加しました。特に増えたのはサステナビリティのガバナンスや、人材・人権分野の情報です。しかし、依然として何をもって財務的に重要とするのかといった情報や、戦略・指標に関しての記述は課題が見られます。

● 有価証券報告書内でのサステナビリティ情報開示のページ数(発行100社)
図:有価証券報告書内でのサステナビリティ情報開示のページ数(発行100社)
② 統合報告書~ストーリー重視と情報の整理

統合報告書は、ストーリー性の重視から近年ページ数の削減傾向が顕著です。2023年から2025年にかけて、60%強の企業がページ数を減らし、詳細なデータやサステナビリティ情報を整理しています。これまで100ページを超えるレポートが中心でしたが、50~70ページのものも増えてきています。削減するために①全体の構成は維持しつつもポイントを明確化する②詳細なESG情報は別冊やウェブへ移動といった方法がとられる傾向が見られます。さらに、「ストーリー性」の重視により、ビジョンや成長ストーリーにフォーカスしているケースも見られます。

● 統合報告書のページ数(発行95社)
図:統合報告書のページ数(発行95社)
③ サステナビリティ報告書~多様なニーズへの対応

サステナビリティ報告書は、評価機関や、社員、顧客など幅広いステークホルダーのニーズに応えるため、依然として100ページを超える大容量のものが多くなっています。また、PDFやウェブサイトの活用、コミュニケーション用のブックレット、テーマごとのレポート(人的資本、気候変動・生物多様性、ダイバーシティなど)など、媒体形態にも様々な工夫が見られます。特にCDP回答へのダイレクトリンクやESGデータ集のエクセルファイルでの提供など、投資家が使いやすい工夫が見られます。

● サステナビリティ報告書のページ数(PDF/冊子発行54社)
図:サステナビリティ報告書のページ数(PDF/冊子発行54社)
  • ウェブサイトのみの企業はカウント外

媒体ごとのマテリアリティの使い分け

各媒体におけるサステナビリティ情報の使い分けで最大のテーマは、シングルマテリアリティとダブルマテリアリティの使い分けだと考えられます。財務的な影響度のみで判断するシングルマテリアリティを記載するのが有価証券報告書、社会環境への影響度も踏まえて判断するダブルマテリアリティを記載するのがサステナビリティ報告書となるはずです(統合報告書は各社の判断)。
今回の調査では、その使い分けをしている企業は5社にとどまりました。また、使い分けしていない企業も大半の企業はダブルマテリアリティで記載していました。有価証券報告書での使い分けができていないのはシングルマテリアリティを特定していないという理由が多いと考えられます。一方で統合報告書においては、有価証券報告書はシングルマテリアリティで開示していても、統合報告書ではダブルマテリアリティという企業も多く、経営にはダブルマテリアリティが必要という意思を反映している可能性もあります。SSBJへの対応が進む中でこれからこの考えの整理も進んでいくと考えられます。

● 媒体ごとのマテリアリティの使い分け(100社)
図:媒体ごとのマテリアリティの使い分け(100社)

使い分けのヒント:3つの視点から考える

各社が媒体の使い方を自由に決められるため、最適な方法を見つけるのは容易ではありません。しかし、媒体設計においては、次の視点を考慮することが有効です。

① 情報の性質と求めている読者

求められている情報といっても、経営方針や戦略から、財務に関連するサステナビリティテーマのガバナンスや戦略だけでなく、各ステークホルダーが注視するテーマまで広範にわたります。そうした情報の性質を理解した上で、投資家、顧客、社員、地域社会など伝えたい読者が何を求めているのかを考える必要があります。アクティブ投資家は中長期での企業成長に関心が高いため統合報告書のような統合されたストーリーへの情報ニーズが高いですし、評価機関はそれぞれが独自で持つ指標をチェックするためにサステナビリティ報告書のような包括的な情報ニーズが高いと考えられます。

② 情報開示の目的

情報開示には、求められる説明責任、ステークホルダーとの対話、開示プロセスでの内部マネジメント強化などの目的が存在します。自社はどの目的に重きを置いているのかで情報設計を行うことが重要です。基本的に法定上の説明責任を果たしたいだけであれば有価証券報告書内での情報発信で十分の可能性があります。積極的ではないが株主や投資家との意見交換も行いたいということであれば有価証券報告書に統合報告書的な要素を加えるというのも選択肢です。それだけでなく、様々なステークホルダーと対話を通じて経営品質を向上したいという意思があれば、投資家向けの統合報告書、従業員向けのサステナビリティ報告書、NGO/NPO向けのサステナビリティ活動報告書など、対話したい相手ごとに媒体を設計するということも考えられます。

③ 実現可能性(作り手のメリット・デメリット)

しかし、理想だけではすべての媒体を作成できないため、社内のリソースなどを加味した実現可能性も考える必要があります。作成・運用コスト、社内リソース、表現の自由度、チェック体制の確保など、実務面で検討が必要なテーマがあります。特に、有価証券報告書に情報を載せるとなると表現の制約が出たり、作業期間が短い中でチェック体制を強化したりなど、担い手の負担が増えることになります。法定開示物である有価証券報告書と、任意開示物であり開示するツールにも自由度のある統合報告書やサステナビリティ報告書の違いをうまく活かし、現実的な設計をする必要があります。

サステナビリティ情報開示は義務化が進んでいるため、説明責任を果たすための「しなければならないこと」との認識が高まっています。しかし、任意開示の時代の本来の目的であった「対話を通じたステークホルダーとの信頼構築」「対話を通じた経営品質向上」といった側面を忘れてはいけません。そうした視点が今後の競争力向上に直結します。そのため、サステナビリティ担当者の方には、情報の性質や読者、目的、実現可能性の視点を踏まえ、各媒体の特性を最大限に活かした最適な情報開示を目指していただきたいです。

調査概要

■ 期間
2025年12月実施
■ 対象企業
株式時価総額上位100社(日本)
■ 対象媒体
有価証券報告書、統合報告書、サステナビリティ報告書(ウェブサイト含む)

本稿に関してより詳しい情報をお知りになりたい方・情報開示(有価証券報告書、統合報告書、サステナビリティ報告書)のご支援を希望される方は、以下のリンクからお問い合わせください。