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サステナビリティ調達を機能させるには?
――実効性を高める5つの見直しポイント

冨田洋史
(代表取締役社長/コンサルタント)

CSDDD※1などによりサステナビリティ調達(サステナブル調達)の重要性が高まる一方で、「サプライヤー行動規範は作った。SAQ※2も配っている。けれど、その先に進まない」、 こうした悩みは多くの企業で共通しています。本記事では、2026年3月に実施したクレアンセミナー「サステナビリティ調達の再点検」の内容を中心に、サステナビリティ調達の現状や途中で止まりやすい理由を整理したうえで、実効性を高めるための5つの見直しポイントを解説します。

サステナビリティ調達の課題

サステナビリティ調達への関心が高まるなか、多くの企業がサプライヤー行動規範の策定やSAQ(自己評価アンケート)の実施など、一定の取り組みを進めています。しかし、実務の現場では「とりあえずSAQを配っているが、その先に進めない」「サステナビリティ部門や調達部門だけが抱え込み、経営や事業部を巻き込めない」「改善を求めたいが、どこまで求めるべきか判断が難しい」といった悩みが少なくありません。

こうした現状を踏まえると、サステナビリティ調達を単なるチェック業務ではなく、全体像から捉え直し、企業として本当に機能する仕組みにしていくことが難しいことがわかります。

サステナビリティ調達が経営課題となった背景

背景にあるのは、バリューチェーン全体を通じて企業責任を問う流れが世界的に強まっていることです。欧州では企業サステナビリティ・デューデリジェンス指令(CSDDD)の発効をはじめ、人権デューデリジェンスや、森林破壊、紛争鉱物などをめぐる制度整備が相次いでいます。日本でも2022年に「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」が公表され、サプライチェーン上の課題を把握し、対応することは一部の先進企業だけのテーマではなくなりました。

また、バリューチェーンにおける気候変動や人権侵害への対応不足は、自社のレピュテーション低下だけでなく、調達遅延、生産停止、コスト上昇、市場アクセスの喪失といった経営上の影響にも直結し得ます。つまり、サステナビリティ調達は単なる社会的責任だけではなく、事業継続性と企業価値に関わるテーマとして捉える必要があります。

サステナビリティ調達の全体像を4つの視点で整理する

サステナビリティ調達を考える際、大きく4つの観点で整理することが大切です。

第一に「マネジメント」。方針やガイドラインを定め、誰が責任を持って推進するのかを明確にする段階です。
第二に「モニタリング」。SAQや監査などを通じて、サプライヤーの実態を把握し、課題を確認する取り組みです。
第三に「経営との統合」。サプライチェーン上のリスクや機会を、財務影響や事業戦略と結びつけ、経営課題として位置づけ直す視点です。
第四に「キャパシティビルディング」。サプライヤーに一方的に要請するだけでなく、研修、技術支援、資金面の工夫、業界連携などを通じて、ともに改善を進めていく考え方です。

重要なのは、これらを型通りに一度だけ行うのではなく、往復しながら経営的視点で見つめ直し、全体を強化していくことです。

日本企業の現状――取り組みは進んでも、まだ“形を整える段階”

しかし、冒頭にもあったように経営的視点でサステナビリティ調達をとらえ全社的に推進することは難しいのが現状です。時価総額上位100社(2025年3月時点)のサステナビリティ調達の開示内容を見ると、多くの企業がすでに何らかの取り組みを始めている一方で、全体としてはまだ“形を整える段階”にとどまるケースが多いことがうかがえます。(下表参照)

たとえば、サステナビリティ調達に関するガイドラインを持つ企業は多いものの、取締役会レベルの関与や、調達に伴うリスクの明確化まで進んでいる企業は限定的にとどまりました。モニタリングについても、SAQの実施自体は広がっている一方で、改善要請を実施している企業は半数程度にとどまります。また、その対象は「主要サプライヤー」や「取引額上位」に偏りがちで、リスクの高さに応じた優先順位付けは十分とは言えません。

さらに、研修や技術支援など、モニタリング後の伴走支援まで踏み込めている企業はまだ少数です。Tier2以降への働きかけも限定的で、バリューチェーンの深い部分まで関与することの難しさが改めて浮き彫りになっています。

サステナビリティ調達に関する取り組み状況の調査結果(抜粋)
調査項目(抜粋) 社数(n=100)
サステナビリティ調達用のガイドラインがある 86社
サステナビリティ調達の推進体制に取締役会・取締役で構成される委員会が関与している 17社
サプライヤーに対してSAQを実施している 75社
SAQ後に改善要請を実施している 54社
サプライヤーに対して研修以外のキャパシティビルディングをしている 16社
Tier2のサプライヤーに対して直接働きかけている 9社
  • クレアン調べ。2025年3月時点の時価総額上位100社を対象に、統合報告書、有価証券報告書、サステナビリティ関連開示、調達方針等の2026年2月時点での公開情報をもとに整理。

これらの結果からは、日本企業の多くが「方針策定」と「一次的な把握」までは進めている一方で、経営関与や改善支援、Tier2以降への展開といった実効性の領域にはまだ大きな伸びしろがあることがわかります。

なぜサステナビリティ調達は途中で止まりやすいのか

では、なぜそこで取り組みが止まりやすいのでしょうか。現場でよく見られるのは、サステナビリティ調達が「担当部門の仕事」として閉じてしまい、経営や事業部門にとっての意味づけが弱い状態です。自社にとってどのサプライチェーン課題が重要で、それがどのような財務影響や事業リスクにつながるのかが整理されていなければ、全社的な優先順位はつけられません。

また、SAQの回収自体が目的化し、その後の分析やフィードバック、是正支援の運用フローが設計されていないことも少なくありません。さらに、サプライヤー側、とりわけ中小企業には人員や知見、資金が不足していることが多く、「要請するだけ」では改善が進まない現実があります。だからこそ、サステナビリティ調達は調達部門だけの管理業務ではなく、経営課題として再設計し、社内外の協働の仕組みにしていく必要があります。

実効性のあるサステナビリティ調達に向けた5つの見直しポイント

これからの実践に向けて、まず見直したいのは「次のモニタリングを回す前の準備」です。

第一に、自社にとってのサプライチェーン上の重要なリスクと機会を特定し、それを経営や事業とつなげて説明できる状態にすること。これがなければ全社での取り組みには発展しません。
第二に、調達・サステナビリティ・法務・品質・事業部などをどう巻き込み、誰が監督し、誰が実務を担うのかという体制を明確にすること。サステナビリティや調達部門だけでは本当のリスク対応はできません。
第三に、すべてのサプライヤーを同じ濃さで見るのではなく、国・業種・原材料・事業上の重要度などを踏まえて優先順位をつけ、高リスク領域に資源を集中すること。すべてのサプライヤーに対応していては資源がいくらあっても足りません。
第四に、フィードバックや是正支援、再確認まで含めた運用フローを設計すること。SAQを回収してから次のステップを考えていては足踏みしてしまいます。
そして第五に、サプライヤーとともに改善する発想を持つことです。情報提供や研修に加え、必要に応じて技術協力やインセンティブ設計、さらには業界共通のガイドラインや質問票づくりといった連携も有効です。

サステナビリティ調達を“機能する仕組み”に変えるために

サステナビリティ調達は、もはや「ガイドラインをつくった」「SAQを配った」で完了するテーマではありません。いま求められているのは、自社にとって本当に重要な課題を見極め、経営と結びつけ、サプライヤーとともに改善を進める“機能する仕組み”へと進化させることです。

すでに取り組みを始めている企業ほど、次の一手として何を見直すべきかを考える段階に入っています。自社の取り組みを再点検し、より実効性のあるサステナビリティ調達へ進めたい方は、制度設計や運用の見直しから着手してみるとよいでしょう。

そのためにもまずは、自社のサステナビリティ調達を「マネジメント」「モニタリング」「経営との統合」「キャパシティビルディング」の4つの視点で棚卸してみませんか?

  • ※1企業サステナビリティ・デューデリジェンス指令 (CSDDD):CSDDDとは Corporate Sustainability Due Diligence Directiveの略で、サプライチェーン上のサステナビリティに関するデューデリジェンスを企業に義務化する法整備をEU各国に求めるEU指令。この指令による法整備の結果、一定規模のEU企業及びEU域外企業は、人権や環境に関するデューデリジェンスが2029年から義務化される予定。
  • ※2SAQとはSelf-Assessment Questionnaire の略で、サプライヤーに対してサステナビリティに関する取り組み状況について自己診断を実施してもらうための質問票。バイヤー企業がサプライヤーに対して配布・回答し、サプライヤーのリスク把握や対話の出発点として活用されます。

サステナビリティ調達に関してより詳しい情報をお知りになりたい方・ご支援を希望される方は、以下のリンクからお問い合わせください。