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知見・事例

持続可能なサプライチェーンの実現に向けた中小サプライヤーにおける「ビジネスと人権」の取り組みとは
―外国人雇用の人権リスクと対応について―

持続可能なサプライチェーンの実現に向けて、中小サプライヤーに「ビジネスと人権」の取り組みを働き掛けていく際に、大きな課題の一つとして、外国人雇用の人権リスクの問題があります。
本記事では、中小サプライヤーにおける外国人雇用の人権リスクとその対応について、弊社コンサルタントと、外部専門家である社会保険労務士の先生より解説します。

外国人雇用の人権リスクを低減させるために、
中小サプライヤーへどのように働き掛ければよいか

伊藤雅和
(株式会社クレアン コンサルタント)

1. 中小企業における外国人雇用の人権リスクへの対応のあり方

リソースの少ない中小企業においては、様々な経営上の課題に対して効率的に取り組む必要がありますが、「人権リスクの低減」だけを目的に社内整備や取り組みを行うことはリソースの制約などから現実的には難しいことが多いと考えられます。

しかし、人権は「人」に関わる問題であり、中小企業において「人」は最も重要な経営資源であるといっても過言ではありません。その意味で、採用・定着・育成などの「人的資本への取り組み」は、中小企業において大変重要な経営課題であると言えます。

そこで、「人権リスク」を「人的資本リスク」(または「人材リスク」)に翻訳して考えてみてはいかがでしょうか。
>具体的には、外国人労働者のリスクに関しては、例えば、以下のような翻訳が可能です。

外国人労働者における人権リスク 外国人労働者における人的資本リスク
日本語でしか説明しない 安全衛生リスクの増加、労働災害の発生
ハラスメント 離職率上昇、欠勤増加
昇進差別 エンゲージメント低下、人材流出
相談窓口が使えない 問題の潜在化、リスクの増大
キャリア形成機会不足 定着率低下、優秀な人材不足
地域生活支援不足 早期退職、採用コスト増加

こうした人的資本リスクに対する取り組みを、結果として人権リスクの低減につながるように設計すれば、重要な経営課題として実行されやすくなり、結果として人権リスクも低減されることが期待できます。
そのような取り組みの設計として、例えば以下のようなプログラムが考えられます。

例1)入社初期定着プログラム(効果:早期離職防止)

雇用契約や就業規則の内容、社内ルール、安全衛生教育、相談窓口の利用方法、生活支援情報提供などを、母国語またはやさしい日本語で行う。
⇒ 人権リスクの低減:

  • 危険箇所や保護具の使用法が分からない等による労災発生の防止
  • 相談窓口が利用できないことによるパワハラや差別の深刻化の防止
  • 残業代や有給休暇等のルールが分からないことによる未払い残業や健康悪化等の防止

例2)メンター制度(効果:早期戦力化、定着率向上)

外国人社員1名に対して日本人先輩社員や上司以外の相談相手を配置する。
⇒ 人権リスクの低減:

  • ハラスメントの早期発見
  • メンタル不調の発見(健康に配慮した就業体制、休職など)

例3)キャリア形成支援プログラム(効果:長期定着)

日本語教育のほか、資格取得支援、リーダー候補育成などを行う。これにより、外国人の長期定着につながる。また、会社としてのスキル蓄積、生産性向上、採用競争力向上にもつながる。
⇒ 人権リスクの低減:

  • 外国人労働者に対する昇進差別の防止(公平な機会提供)
2. バイヤー企業の側からどのように働き掛ければよいか

一般的には、SAQアンケート結果に基づきバイヤー側で優先課題を特定し改善要求を行うという進め方が考えられますが、これはサプライヤー側において「顧客から要求されたので(仕方なく)行う」という形式的な対応になってしまう可能性があり注意が必要です。SAQアンケートは質問数を抑えた形にして高リスクなサプライヤーをスクリーニングするために行うこととし、具体的な課題の特定は高リスクサプライヤーとの間での対話を通じて行うことをお勧めします。

サプライヤーとの対話を進める際には、以下の点を考慮して行うと効果的です。

1)人的資本・人材面での課題を起点に対話で深掘りを行う

「外国人材の採用・定着・育成」といった人的資本・人材の観点でサプライヤーが抱えている課題が何であるかを聞き、その課題を起点に、背景や原因などを対話により深掘りしていきます。
例えば、「外国人の離職率が高い」という課題があるのであれば、退職理由は把握しているか、上司との関係・賃金・住環境・母国語対応などに問題はないか、といったことを深掘りしていき、最終的に人権面のリスク(例:差別、ハラスメント、労働災害)について話を行うといった進め方が考えられます。
こうした対話により、サプライヤーは経営課題と人権リスクとを結びつけて理解しやすくなります。

2)実行可能な具体策をアドバイスする

中小サプライヤーにおける人権リスクを実質的に低減させるためには、経営課題である人的資本リスクへの取り組みを通じて、結果として人権リスクの低減につなげる設計が重要です。(例えば、「入社初期定着プログラム」によって、早期離職の防止とともに、労災やパワハラの深刻化などを予防できる、など)
そのような具体策を中小企業が自ら立案することは難しい場合が多いため、バイヤー企業の側からアドバイスすることが期待されます。こうしたアドバイスは、中小サプライヤーへの「支援」として位置づけることも可能です。

なお、こうしたサプライヤーへの働き掛け・対話の検討にあたっては、中小企業の労務管理と人権対応に詳しい専門家の助言を受けることが効果的ですので、御検討されると良いと思います。

外部専門家からの寄稿

(中小サプライヤーにおける人権面での課題や取り組み、それらを踏まえた大企業(発注企業)に求められる点について、外部専門家からの寄稿を紹介します。)

― 現場の「リアル」と「心」から紐解く、サプライチェーン全体の人権尊重 ―

BHR推進社労士 北澤 彩子

1. 異国で働く苦労―アフリカ・ケニアでの原体験

前段の解説で「人権リスクを人的資本リスクに翻訳する」というアプローチが示されましたが、この取り組みを現場で実効性のあるものにするためには、まず「現場で働く外国人一人ひとりの感情や置かれた環境」を真に理解することから始まります。

私自身、かつて青年海外協力隊員としてアフリカのケニアに2年間赴任し、電気も水道もない環境で活動した経験があります。過酷な日常の中でマラリアに2度罹患し、文化の違いから「一刻も早く日本へ帰りたい」と孤立感や不安に押しつぶされそうになった夜は一度や二度ではありません。そうした極限状態を救ってくれたのは、現地の温かい人々の支えと、互いに歩み寄ろうとする姿勢でした。

現在、日本の現場で働く外国人労働者が直面している葛藤―言語の壁、文化や習慣の違い、異郷の地で生活基盤をゼロから構築する孤独感―は、かつて私がケニアで味わった苦悩と重なります。「入社初期定着プログラム」や「相談窓口」は、単なるリスクヘッジの仕組みではなく、異国で不安に襲われる彼らの心を支え、本来の能力を発揮してもらうための命綱となるのではないでしょうか。

2. 中小サプライヤーの実情:進む二極化と現場の課題

人手不足が加速する中、中小企業における外国人の存在感は増すばかりです。もはや彼らは補完的な労働力ではなく、事業を根底から支えるインフラであり、不可欠なパートナーとなっています。

そうした中、中小サプライヤーの現場では二極化が進んでいます。

一方では、異文化理解に努め、生活支援やキャリアアップの道筋を用意することで、外国人が気持ちよく定着し、活性化している企業が存在します。

一方で、残念ながら労働時間管理や最低賃金の遵守、安全衛生対策といった基本的な法令順守すら危うい企業が依然として存在するのも事実です。

こうした対応の遅れは、経営者の意識不足だけが原因ではありません。多くの中小企業は、人事労務管理に割くリソースが圧倒的に不足しており、また制度の複雑さに追いつけないという構造的な課題を抱えています。

しかし、それを放置することは、非常に大きなリスクとなり得ます。たとえば特定技能外国人には転職の自由が認められており、より労働条件の良い企業があれば、速やかに転職してしまいます。また、新たな育成就労制度においても、一定の要件を満たせば転職が可能となる見込みです。このように「企業が外国人を選ぶ時代」から「外国人に選ばれる時代」へと変化する中で、人権に配慮し、彼らが働きやすい環境を整えなければ、中小企業は人材の流出を防ぎきれず、もはや事業を継続することすら困難になるでしょう。

3. 大企業(発注企業)に求められる「指導」から「伴走」へのシフト

大企業が中小サプライヤーに人権配慮を促す際、念頭に置くべき視点が2点あります。

・発注条件そのものが「人権侵害」を誘発していないかという自省

入管法改正により、2026年10月以降、在留資格の変更・更新時の手数料は大幅に高騰しました。さらに、技能実習から育成就労への制度変更に伴い、外国人雇用のハードルや要件も一層厳しくなっています。日本語講習の義務化をはじめ、企業側が負う費用や運用の負担は年々重くなる一方です。過剰なコスト削減要求や不当な短納期発注は、下請け企業の現場にしわ寄せを生み、結果として長時間の違法残業や安全衛生対策の軽視を誘発します。どんなに「人権を守りましょう」と対話を行っても、適正な取引価格や納期が担保されていなければ、中小企業は現場の改善にコストを割くことができません。

・問題の「排除」ではなく、課題の「伴走解決」へ

SAQアンケートなどでリスクを発見した際、単に「改善しなければ取引を停止する」という姿勢をとれば、サプライヤーは問題を隠蔽するだけです。まずは実態を把握し、その上で、労務管理ノウハウの共有や、生活支援・教育プログラムの共同実施など、中小企業のリソース不足を補う伴走型支援が求められます。外国人が安心して働ける環境を整えるコストは、サプライチェーン全体の安定稼働と品質維持のための必要な投資です。

4. おわりに―外国人に「選ばれる企業・国」であるために

世界的な人材獲得競争が激化する中、日本は「外国人が働く場所として選ぶ国」であり続けなければなりません。

人権を守り、外国人が気持ちよく働ける環境をつくることは、最終的にはサプライチェーン全体の人的資本を最大化し、企業の持続可能性を高めることにつながる、必要不可欠な経営戦略です。大企業と中小サプライヤーがパートナーとして手を取り合い、持続可能な協働関係を築いていけるよう、私自身も社会保険労務士、そして登録支援機関という双方の現場を知る立場から、現場の声と心に寄り添った支援を通して全力で貢献してまいります。

<プロフィール>
北澤 彩子
社会保険労務士法人 彩工房 代表社員、登録支援機関 彩工房 代表

社会保険労務士として中小企業の労務相談対応や給与計算業務に従事する傍ら、登録支援機関として特定技能外国人の就労・生活支援に携わっている。

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