知見・事例
SSBJ基準の現在地と生かし方(後編)
冨田洋史
(代表取締役社長/コンサルタント)
SSBJ基準の義務化が迫る中、企業担当者は具体的にどのようなステップで対応を進めればよいのでしょうか?前編では、現在の有価証券報告書上の開示状況から課題となりそうなポイントを確認しました。後編では、どのようにSSBJ基準への対応をサステナビリティ経営のレベルアップのために活用できるかについて解説します。
基本的な指針―「踊らされない」ための前向きなプロジェクト設計
SSBJ基準への適応は単なる義務化への対応とするには負担が重いのが実態です。しかし、会社全体の構造を見直すため、サステナビリティを経営に組み込む絶好の機会にもなります。情報開示プロセスを会社の中長期的成長へつなげるために、6つのステップと3つのポイントを意識していただくとよいと思います。
SSBJ基準を生かす6つのステップ
対応プロジェクトは、Step1ロードマップ作成→Step2推進体制構築→Step3マテリアリティ特定/見直し→Step4ガバナンス・マネジメント見直し→Step5指標・目標設定とデータ収集→Step6情報開示の方向性検討、というステップで進みます。
Step1: ロードマップ作成―全体像を整理し必要な項目を見極める
まずは現状のサステナビリティマネジメント状況を確認し、SSBJ基準や評価機関の要請などの外部要請、および他に改善が必要と考えていた点とのギャップを整理。SSBJ基準からの要請項目だけでなく、従来必要と感じている対応項目を洗い出して、会社の環境や実情に合わせたロードマップを設計しましょう。すべてを一度に対応するのではなく、優先度や必要性を見極めることも肝心です。
Step2: プロジェクト推進体制構築―バリューチェーンと関係部門の再整理
関連部門を見落とさないよう、バリューチェーン全体を再確認。SSBJ基準にも記載がある役員や担当者への研修を機に、組織全体の意識を揃え、必要な部門の協力を得ましょう。巻き込み型の体制を作ることで、社内浸透やスムーズな実務推進につながります。また、部門ごとの関与度合いを明確にし、中心部門・評価関与部門・プロセス関与部門などに分けて役割を整理すると、負担感を調整しやすくなります。
Step3: マテリアリティ特定/見直し―ダブルマテリアリティで包括的に
SSBJ基準では財務マテリアリティが求められますが、経営や長期視点の投資家の観点ではダブルマテリアリティ(財務×インパクト)が必要なのは言うまでもありません。そのため、リスクと機会を包括的に洗い出し、関連部門から意見をもらいながら財務的な影響も、社会・環境への影響も評価を進めましょう。財務情報への影響は、損益計算書・貸借対照表・キャッシュフロー計算書のどこに現れるかまで整理することが大切です。そのためにも、できるだけ関連する部門と一緒に検討することも忘れてはいけません。
Step4: ガバナンス・マネジメントの見直し―既存体制への統合がポイント
新しいプロセスをゼロから作るのではなく、既存の体制やプロセスにうまく統合することが大切です。監督組織の役割文書やリスク管理プロセスにサステナビリティ要素を統合することで、「サステナビリティは別物」ではなく会社のプロセスに組み込むことができます。また、そうすることで業務負担や社内の抵抗感を減らすことができます。そのため、会社にすでにある組織体制に合わせ、監督と執行の役割・権限を明確化し、必要に応じて新規プロセスを設計します。
Step5: 指標・目標設定とデータ収集―内部統制と優先順位の明確化
マテリアリティに紐づけたKPIや目標を設定し、データ収集や内部統制文書・フローを整備します。このステップは手がかかるだけでなく今後の運用時の負荷にも影響します。そのため、SSBJ基準に合った開示に必要な項目をスクリーニングし、効率的な仕組みを設計しましょう。一方で、有価証券報告書には掲載しないが、マネジメント上必要なKPI・目標もしっかりと設定し、使い分けを行っていくことが必要になります。
Step6: 情報開示の方向性検討―ニーズに合わせて最小限+αを設計
有価証券報告書への開示は最低限とし、読者(一般投資家、ESG投資家、顧客など)ごとに必要な情報を設計しましょう。社内承認プロセスの負荷や訂正報告のリスクも考え、「何でも載せる」よりも目的に沿ったミニマム設計が現実的です。また、情報開示の目的は情報を開示することではなく、その開示を通じて読者と対話を行い、経営の在り方をブラッシュアップすることです。そのため、どのように対話に生かしていくのかについても併せて設計することが大切です。
成功に向けた3つのポイント―「全体議論」「広い対話」「統合」
これまでのステップで見てきたように次の視点についてプロジェクトを通して意識し続けることが重要です。
ポイント1: サステナビリティ全体の議論に
SSBJ基準が求めているのはサステナビリティ全体の議論の一部分でしかありません。そのため、これをきっかけとして、本当に必要なものは何なのかを経営や関係部門と議論できるようにしましょう。
ポイント2: 関係部門と広く対話を
SSBJ基準を背景にこれまで議論が充分にしきれなかった関係部門と広く対話をするチャンスです。ここでしっかりと巻き込み、関係部門が「なぜ」関係するのか(場合によってはしないのか)を一緒に考えましょう。そのことで、自分ごと化や長期的な組織内への浸透にも役立ちます。
ポイント3: 体制・経営への統合を意識
新規の体制やプロセスより既存のものへ統合することを意識しましょう。あくまでも目標は経営プロセスの中に、しっかりとサステナビリティを組み込み、統合経営を実践できるようになることです。
まとめ―担当者への応援メッセージ
SSBJ基準対応は大変なプロジェクトですが、会社がステークホルダーや中長期的な成長を見据えた経営を実現するための大きな機会です。単なる義務化対応として片付けるのではなく、経営の中枢にサステナビリティを組み込む「変革のチャンス」と捉えて、前向きに取り組んでみてください。その際、アドバイスや支援が必要な場合には、ぜひ弊社にお問い合わせいただけると幸いです。
SSBJ基準への対応に関してより詳しい情報をお知りになりたい方・ご支援を希望される方は、以下のリンクからお問い合わせください。
