知見・事例
SSBJ対応の最新動向(前編)
有価証券報告書100社調査から見る開示状況と実務課題
2027年3月期以降、一定規模以上の上場企業を対象に、SSBJ基準に基づく開示の適用が段階的に始まることが予定されています。2026年3月期から任意適用が始まり、日本企業のサステナビリティ情報開示は新たな段階に入りました。しかし、多くの企業で「具体的に何から取り組めばよいのか」「他社はどこまで対応しているのか」といった声が聞かれています。
クレアンの100社調査では、SSBJ対応を意識した開示は着実に進展している一方で、取締役会による監督、財務的影響の説明、ERMとの統合、第三者保証への対応には、なお課題が残ることがわかりました。
本記事では、7月にクレアンが実施したセミナー「SSBJ対応はどこまで進んだか?」の内容を中心に、時価総額上位100社の最新の有価証券報告書の分析からわかった、企業の現在地と今後の実務対応に向けたポイントについて解説します。
この記事のポイント
- SSBJ基準が求める「サステナビリティ関連財務開示」の基本的な考え方
- 時価総額上位100社の有価証券報告書におけるSSBJ対応状況
- ガバナンス、戦略、リスク管理、指標・目標ごとの開示の進展と課題
- 企業が今後SSBJ対応を進めるうえで注意すべき実務ポイント
SSBJ基準とは何か:求められるのは「サステナビリティ関連財務開示」
SSBJ基準とは、サステナビリティ基準委員会(SSBJ)が公表した日本のサステナビリティ開示基準です。IFRS財団の国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)が公表したIFRSサステナビリティ開示基準との整合性を踏まえて開発されており、日本企業の有価証券報告書におけるサステナビリティ開示の基礎となる基準です。
まず、前提として、SSBJ基準で誤解されがちなのは、SSBJ基準が求めているのは単なるサステナビリティ情報の開示ではなく、「サステナビリティ関連財務開示」であるという点です。
投資家などの主要利用者の意思決定に影響を与えると「合理的に見込まれる」重要なサステナビリティ関連のリスクと機会について開示することが求められています。
従来、多くの企業が取り組み、有価証券報告書で開示してきたマテリアリティの議論は、「会社として重要なサステナビリティ課題(トピック)」を特定することが中心でした。しかしSSBJ基準では、そのトピックの中から財務的な影響の大きいリスク・機会を特定し、それに関する重要な情報を開示することが求められます。
この違いを正しく理解することが、SSBJ対応の出発点になります。
100社調査から見えた対応状況
クレアンの今回の調査では、2026年3月時点の時価総額上位100社を対象に、最新の有価証券報告書における「サステナビリティに関する考え方及び取組」の記載内容を分析し、2025年に実施した調査結果と比較しました。
その結果、企業の対応は着実に進んでいる一方で、本格的にSSBJ基準に対応した開示はまだ発展途上であることが見えてきました。
調査概要
以下の内容に基づき、クレアンが独自に行った調査です。2025年に実施した同様の調査と比較して集計しています。
■ 期間 2026年7月実施
■ 対象企業 株式時価総額上位100社(2026年3月時点)
■ 対象媒体
有価証券報告書内の「サステナビリティに関する考え方及び取組」のみを対象
※今回はサステナビリティ共通パートのみを確認(気候変動パートは除く)
※説明がある場合は、文書内の他パートや関連ウェブサイトも確認
ガバナンス開示の状況:取締役会による監督の説明が課題
ガバナンスについては、サステナビリティ委員会や担当役員など、執行側の体制や役割を説明する企業は多く見られました。一方で、取締役会などの監督機関がどのような責任を負い、どのように監督しているのかを明確に示している企業はまだ限定的です。
SSBJ基準では、単に組織図を示すだけではなく、「誰が監督責任を負うのか」「その人がどのような役割を担っているのか」「役割が方針や規程などで明示されているのか」が求められます。
コーポレートガバナンス・コードの改定で取締役会のサステナビリティへの責任がより明確になったこともあわせ、今後はサステナビリティを経営課題としてどのように取締役会が監督しているかを、より具体的に説明することが求められます。
■ ガバナンスの開示状況
監督を担う機関名を示す企業は68社ありましたが、その機関がどのような責任や役割を負っているかまで文書などに明示している企業は13社にとどまりました。
(社)
| 開示項目 | チェックポイント | 2026年 | 2025年 |
|---|---|---|---|
| ガバナンス機関又は個人 | 「監督する」機関が明示されている | 68 | 66 |
| 監督機関の役割が文書などに明示されている | 13 | (未調査) | |
| 報酬にサステナビリティが組み込まれている | 55 | 44 | |
| 経営者の役割 | 執行する経営者・委員会の役割が明示されている | 95 | 93 |
| 上記が監督機関を支援する方法が明示されている | 76 | 78 |
※クレアン調べ
戦略開示の状況:リスク・機会の説明は進むが具体性は限定的
今回の調査で最も改善が見られたのが戦略の開示です。
2025年の開示ではマテリアリティの説明にとどまり、リスク・機会が具体的に記載されていない企業が多く見られました。しかし今年は、リスク・機会そのものを説明する企業が増加しました。
ただし、依然として説明が抜けている企業は多く、また説明があっても課題は残っています。
特に多かったのが、「リスク・機会は説明しているが、具体的な内容には落とし込めていない」というケースです。ビジネス・モデルや財務にどのような影響を与えるのかまで、踏み込めていない企業は少なくありませんでした。財務的影響については、ほとんどの企業が定性的な説明にとどまっており、将来の収益やコストへの影響を定量的に示している企業はごく一部でした。
今後、リスクと機会の会社への具体的な影響をどのように分析し、表現していくのかがポイントとなりそうです。
■ 戦略の開示状況
リスク・機会を明示する企業は19社から35社に増加しました。一方で、財務的影響を定量的に説明している企業は1社にとどまり、ビジネス・モデルや財務への影響の具体化が課題です。
(社)
| 開示項目 | チェックポイント | 2026年 | 2025年 |
|---|---|---|---|
| リスク及び機会についての説明 | 関連するリスク・機会の説明が明示されている | 35 | 19 |
| リスク及び機会の影響 | ビジネス・モデル及びバリュー・チェーンに与える影響が明示されている | 25 | 19 |
| 財務的影響(定量的に)が明示されている | 1 | 0 | |
| 財務的影響(定性的に)が明示されている | 22 | 16 | |
| 戦略及び意思決定に与える影響が明示されている | 65 | 34 | |
| リスクに関連する戦略及びビジネス・モデルのレジリエンス | リスクへのレジリエンスが明示されている | 8 | 6 |
※クレアン調べ
リスク管理開示の状況:ERMとの統合説明が今後の焦点
リスク管理では、リスクだけでなく機会の管理プロセスについても開示する企業が増加しました。
これは、SSBJ基準への理解が進んだ結果と考えられます。
一方で、引き続き、多くの企業が苦戦していたのが、サステナビリティ関連リスクと全社リスクマネジメント(ERM)との関係性です。サステナビリティのリスク管理プロセスと、既存のERMが別々に説明されており、両者のつながりがわかりにくいケースが数多く見られました。
投資家から見れば、サステナビリティリスクも企業全体のリスクの一部です。今後は、サステナビリティリスクを既存のリスク管理体制にどのように統合しているのかを明確に示すことが重要になります。
■ リスク管理の開示状況
リスク・機会の管理プロセスの開示は、それぞれ71社・52社と増加しました。しかし、サステナビリティ関連のリスク・機会の管理プロセスとERMの整合性がわかる企業は6社にとどまりました。
(社)
| 開示項目 | チェックポイント | 2026年 | 2025年 |
|---|---|---|---|
| リスクを識別し、評価し、優先順位付けし、モニタリングするために用いるプロセス及び関連する方針に関する情報 | リスクの管理方法が明示されている | 71 | 55 |
| 機会を識別し、評価し、優先順位付けし、モニタリングするために用いるプロセスに関する情報 | 機会の管理方法が明示されている | 52 | 25 |
| リスク及び機会を識別し、評価し、優先順位付けし、モニタリングするために用いるプロセスが、全体的なリスク管理プロセスに統合され、用いられている程度、並びにその統合方法及び利用方法に関する情報 | 全社リスク管理方法との何らかの関係が明示されている | 80 | 74 |
| 全社リスク管理方法と整合されていることがわかる | 6 | 10 |
※クレアン調べ
指標・目標の開示状況:保証へのスピード感が最大の課題
指標と目標については、多くの企業がすでにマテリアリティに関連するKPIや目標を設定していることもあり、比較的開示が進んでいました。
しかし、第三者保証の取得状況を見ると、課題も見えてきます。特にScope1・2排出量という保証が求められるデータについては、有価証券報告書の発行時点までに保証を取得することが難しく、多くの企業が対応途上の段階にあります。
データ収集体制や内部統制の整備は、今後の重要なテーマです。
■ 指標・目標の開示状況
指標を設定している企業は82社と多い一方で、第三者保証を取得済み、または取得予定と明記している企業は7社と限定的でした。
(社)
| 開示項目 | チェックポイント | 2026年 | 2025年 |
|---|---|---|---|
| 指標 | サステナビリティ関連のリスク・機会の指標がある | 82 | 59 |
| SSBJ基準以外の指標を使っている場合、説明がある | 4 | 1 | |
| 第三者保証を行っている/取得予定と明記 | 7 | 2 | |
| 目標 | 上記、指標に対する目標がある | 7 | 57 |
※クレアン調べ
まとめ:SSBJ対応の最終化はこれから本格化
クレアンでは、今年に入り、多くの企業のSSBJ対応状況について意見交換を重ねてきました。
実際に分析を終えている企業は多く、あとはどこまで開示するかで悩んでいるケースが多く見られました。一方で、有価証券報告書上の開示を見る限り、分析結果をどのように投資家向けの開示として整理するかについては、多くの企業が社内で試行錯誤している段階にあると考えられます。
今回のクレアンの調査対象である100社のうち、SSBJ基準を任意適用した企業は1社にとどまりました。一方で、任意適用を明示していないものの、SSBJ基準にかなり近い開示を行っている企業も5社程度見られ、来年に向けた準備が進んでいることがうかがえます。
では、開示に向けて改めて何を検討する必要があるのでしょうか。後編では、調査結果を踏まえ、SSBJ対応の最終化に向けて検討すべきポイントを解説します。
●参考情報
サステナビリティ基準委員会(SSBJ) / SSBJ基準
https://www.ssb-j.jp/jp/ssbj_standards_system.html
IFRS Foundation / ISSB Standards
https://www.ifrs.org/issued-standards/ifrs-sustainability-standards-navigator/
日本取引所グループ / コーポレートガバナンス・コード関連
https://www.jpx.co.jp/equities/listing/cg/
SSBJ対応に向けて、重要性判断の整理、財務的影響の説明、ERMとの統合、有価証券報告書での開示方針に課題をお持ちの方は、ぜひクレアンまでご相談ください。
