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サステナビリティの探求

持続可能なサプライチェーンマネジメントのために必要な視点

内田宏樹(コンサルタント)

1. 大企業が直面するサプライチェーンの潜在リスク

昨今、特に上場大企業のサステナビリティ活動におけるサプライチェーンマネジメント(SCM)の重要性が叫ばれるようになっています。特に一次サプライヤーのみの確認では、二次・三次以降の環境・人権リスクを十分に把握できず、法令違反・ブランド毀損・事業継続リスクにつながる恐れがあります。貴社のSCMは万全だといえるでしょうか。

サプライチェーンマネジメントという論点は決して新しいものではありません。一方で、サプライチェーン上流の他者に働きかけることの難しさのために、この文脈における「持続可能性への取り組み」は始まったばかりといってよく、企業の取り組みの現状では、「対応しているつもりでも不十分な場合」があります。例えば、行動規範や調達ガイドラインを作成し一次サプライヤー(直接の取引先)に署名させる、アンケート調査(SAQ)や監査で彼らの取り組み状況を確認する、といった対応は基本的な取り組みとして重要です。一方、一次サプライヤーへの対応で満足し、二次・三次以降のサプライヤーへの対応は不要と考えていると、実は重大なリスクを見落としている可能性があるのです。

最新の国際調査では、アパレル業界でサプライチェーン全体の強制労働リスクを詳細に報告できている企業はわずか8%に留まり、多くの企業が二次・三次サプライヤーの実態把握に課題を抱えています。また、各国の新たな法規制に照らしてみても、表面的な取り組みのままでは法令違反や取引先からの信頼喪失といった事態に発展しかねません。このように、一次サプライヤーまでの対応で自社の取組みを完了としてしまうと隠れた環境・人権リスクにアプローチすることができず、結果として自社のブランドや事業継続に思わぬ打撃を招く事態にも及びかねません。

こうした状況を打破するためにはサプライチェーンマネジメントにどのように向き合えばよいでしょうか。

2. 先進企業が実践するSSCMとビジネスメリット

サプライチェーン上のリスクに真摯に向き合い、「持続可能なサプライチェーンづくりに向けたマネジメント(Sustainable Supply Chain Management; SSCM)」に全社的な視点で取り組む態勢に転換できれば、企業にとってピンチはむしろチャンスにつなげることもできるのではないでしょうか。積極的なサプライチェーン管理の推進は、単にリスクを低減するだけでなく多面的なビジネスメリットをもたらします。

例えば、環境破壊や人権侵害のリスクを減らすことで、サプライチェーンの混乱や供給停止を未然に防ぎ、品質の高い原材料を安定的に調達できるようになります。これらは、中長期的には製品品質や調達コストの安定化にもつながり、競合他社より優位に立つことが可能にもなります。

また、サプライチェーン全体で社会的価値に配慮する姿勢は企業ブランドの向上にも直結します。ステークホルダーである消費者や投資家からの信頼が高まり、結果として市場での評価や資金調達面でも有利に働くでしょう。実際、一部の先進企業には、サプライヤーの環境改善プログラムへの投資によって資源コスト削減と早期の投資回収を実現した例もあります。

<ケース> Kering社 – サプライヤーの資源効率化プログラム

  • Clean by Designというプログラムを通じ、テキスタイル生産サイクルにおける環境負荷低減をアメリカファッションデザイナー協会とのパートナーシップのもとサプライヤーにて実施
  • GHG排出量は平均で11.5%削減され、平均2.5年で投資回収に成功

単に「責任を果たす」ためではなく、持続可能なサプライチェーン構築を自社の競争戦略の一部と捉えることで、リスク要因であった社会・環境課題をイノベーションや市場機会に転換することもできるのです。

3. SSCMの構築ステップ

それでは、現状を乗り越えて「持続可能なサプライチェーンマネジメント(SSCM)」を推進するにはどうすればよいでしょうか。

まず重要なのは、サプライチェーン上の持続可能性に関する取り組みを経営課題として位置づけ直すことです。従来は「サステナビリティ部門や調達部門の仕事」と捉えられがちだったサプライチェーンマネジメントを、経営層や事業部門も巻き込んだ全社横断のプロジェクトとして推進する必要があります。そのためには、単なるサステナビリティ活動ではなく事業上のリスクやメリットを明確に示し、社内の理解と協力を得ることが不可欠です。具体的には、サプライチェーン上に存在する数多くのサステナビリティ課題から深刻度の高い環境・人権リスクを特定し、優先順位をつけることから始めます。リスクベースアプローチにより、財務影響に対する考慮を含めて焦点を絞ることは、社内のリソースの効果的な活用につながるでしょう。

次に、優先順位の高い課題については、関連するサプライヤーと協働しながら課題解決に取り組む体制を築き、改善を進めていきます。
そのためにまず、多種多様なサプライヤーに協力を仰ぎ、適切に管理や指導、支援を行うための柔軟なマネジメント体制を構築することが必要です。また、サプライヤーの規模や地域・業界の特性を踏まえて対応策を調整し、実効性のある形でガイドラインを段階的に適用していくことが大切です。例えば、まずは主要な一次サプライヤーとの対話を通じてSAQでの内容を超える現状を把握し、課題と目標を共有します。必要に応じて技術支援や研修などを提供し、サプライヤー自身が改善に取り組めるようサポートすることも有効です。
こうした形でサプライヤーと協働しながら課題解決に取り組み、望ましい方向に向けた確実な歩みを進めていくとよいでしょう。
さらに社内では、トップマネジメントから現場までの縦断的なサポート体制を整えていくために、進捗状況や成果を定期的に共有しましょう。

SCMの視点のこれまでとこれから
図:SCMの視点のこれまでとこれから

一連のステップを踏むことで、企業は自社のサプライチェーンを単なるコストセンターではなく価値創出の源泉として位置づけることができます。環境・人権課題への対応と事業の持続性を両立させる『全社的なSSCM』に取り組むべき時期が、今訪れています。

「全社的なSSCM」の取り組みを弊社とともに考えてみてはいかがでしょうか。弊社では概略以下のステップにより、お客さまのSSCMをご支援いたします。

図:SSCMの構築ステップ

全社的なSSCMの展開に関してより詳しい情報をお知りになりたい方・ご支援を希望される方は、以下のリンクからお問い合わせください。