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サステナビリティの探求

「サステナビリティ情報を」「誰に」「どのように」届けるか

赤城健一(コンサルタント)

1. はじめに~サステナビリティ情報の開示をめぐる動向~

サステナビリティ情報の開示をめぐる動向は、ここ数年で大きく変化してきています。ISSBやSSBJへの対応、評価機関からの開示要請、社内外ステークホルダーの関心の多様化など、開示すべきテーマは増え続けています。

また、これまで「任意開示」の位置づけで捉えられていたサステナビリティ関連情報は、CSRDや有価証券報告書での開示も求められるようになり「法定開示」の側面が高まってきています。経済産業省の検討会における議論では、法定開示を一つの媒体に集約する案なども出てきており、今後も注目すべき動きです。※1

図:企業情報開示を目指す姿に関するイメージ図

2. 改めて「媒体設計」について見直してみる

このような動きを踏まえ、企業のご担当者様から「限られた人員と時間の中で、すべての情報が網羅されたもの(冊子/PDF/Web等)をつくりたい」とのご要望をいただくことがあります。読者に対して「すべての情報はここにあるので、探してください」とすることは、合理的かつ効率的なことかもしれません。一方で、読者ごとの興味関心は異なるため、それに応じた情報開示姿勢が必要ではないでしょうか。

こうした状況で、改めて問われているのが「誰に」「何を」「どのように」届けるかという「媒体設計」の見直しです。増え続ける情報量(開示要請)に対応できたとしても、ターゲット読者像(の興味関心や読み方、アクセス方法等)が曖昧なままでは、結果として「読まれない/たどり着けない/響かない」情報となってしまう恐れがあります。

3. 「ターゲット読者像」(誰に)の明確化で、「メッセージと構成」(何を)が明確になる

実務の現場でよく聞かれる、「投資家も、取引先も、社員も、すべて大事だからまずはマルチステークホルダー向けの内容」にするという考え方があります。しかし実際には、すべての読者に同じ深さや粒度で情報を届けることは困難です。ここでお伝えしたいことは、想定読者の優先順位をつけることではなく、想定読者の興味関心や読まれ方を改めて確認しましょう、という点です。

そこで有効なのが、「ターゲット読者像」の明確化です。例えば、サステナビリティレポートの第一読者を、社外の専門家や評価機関とする場合、実務者が評価するための情報として、背景説明に加え、方針・体制・KPI・進捗といった“判断材料”を重視した構成が求められます。一方で、社員向けには考え方や重要な内容を理解してもらうために、社長や経営層からのメッセージや、サステナビリティ活動の枠組みや重要課題(マテリアリティ)、社会への提供価値等、共感やストーリー性を重視した構成にしよう、という設計になるでしょう。

4. 「媒体を使い分ける」(どのように)を考える時代へ

近年は、統合報告書、サステナビリティレポート、Webサイト、データブックなど、複数媒体を前提とした情報開示が一般化しています。重要なことは、それぞれの媒体の役割を明確化するとともに、媒体特性に応じた発信方法を選択することです。

媒体の役割を考える際に、以下3つのポイントから整理することも有効です。

① 要点(結論・ハイライト)←初見&一目で理解できる(例:小冊子で)
② ストーリー(なぜ/どうする)←背景情報や考え方を伝える(例:統合報告書で or Webの特設サイトで)
③ 根拠(データ・定義・範囲・出典)←①②をデータで支える(例:データブックPDFで)

そして、媒体特性に応じた発信方法については、例えば、レポート本体(冊子)は社員が“対面で冊子を広げて読者に語れる内容”を重視し、詳細データやテーマ別の大量情報の格納はWebに委ねる。あるいは、法定開示・評価機関対応を意識した情報はインタラクティブPDFで整理し、大量情報の中から必要な情報に早くアクセスしてもらうよう検索性が高い媒体を選択する。さらに、タイムリーな情報発信やストーリー性があるものはWebや動画で行う等。

こうした媒体の役割の明確化や媒体特性を踏まえた適切な発信方法の選択は、読者の理解を助けるだけでなく、作り手側の迷いを軽減し、住み分け理由等の根拠に自信を持つことができるようになるでしょう。

以下は、今後の有価証券報告書におけるSSBJの適用を見据え、サステナビリティ情報の開示媒体は、当面有価証券報告書、統合報告書、サステナビリティレポートが主流となる想定での媒体設計を示した一例です。

主な利用者 目的 内容 媒体ごとの掲載情報のパターン
A B C
アクティブ投資家 持続可能な成長が可能かを判断するための財務以外の情報​ ※有価証券報告書とは異なる内容
トップメッセージ
理念・パーパス
価値創造モデル
経営戦略
統合レポート​ 有価証券報告書​ 有価証券報告書
(アニュアルレポート)​
幅広いESG投資家 企業のキャッシュフローに大きな影響を及ぼすサステナビリティ課題とそれへの対応 ISSB/SSBJが求める情報
(ガバナンス、戦略、リスク管理、指標及び目標)
有価証券報告書​
評価機関 企業の持続可能性を判断するために必要な幅広いサステナビリティ課題とそれへの対応(リスク管理視点) インパクトマテリアリティ
(財務マテリアリティ以外の重要な情報)
評価機関が求める情報
サステナビリティレポート/サイト​ サステナビリティレポート​
多様なステークホルダー サステナビリティ情報全般 CSRDが求める情報
GRIが求める情報
ステークホルダーごとに求めるテーマ
サステナビリティレポート
特定のステークホルダー ステークホルダーの関心に応じた情報 人的資本、人権、環境データなど テーマ別媒体​ テーマ別媒体​ テーマ別媒体​

5. おわりに~「読者ファースト」姿勢と「対話」で改善していく~

媒体設計を検討する際、制作効率や過去の踏襲に流れることがあるかもしれません。本来重視すべきは、「読者が必要としている情報は何か」そして「読者がどう読んでいるか(使っているか)」を考慮した「読者ファースト」の姿勢に今一度立ち返る時が来ていると思います。

一方で、「読者が“本当に”必要としている情報が分からない」、「冊子とPDFとWebのいずれの発信方法が有効か考えあぐねている」等の疑問をお持ちの方もいるでしょう。その時は是非、読者との「対話」を実践してみてください。株主・投資家説明会で意見聴取してみる、評価機関に質問を投げかける、NGO/NPOとダイアログを実施する、社員対象のレポートを読む会を実施しアンケートを取ってみる等々。

この「対話」を通じたコミュニケーションは、開示情報の内容や媒体設計の改善につながるのみならず、経営品質の向上やサステナビリティの実現に向けた「ステークホルダーエンゲージメント」そのものだと思います。きっとそこには、答えやヒントがあるはずです。

もし、媒体設計について悩んでいる、あるいは開示情報のさらなる改善を図りたい等々のご要望がございましたら、是非弊社までご相談ください。

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