統合経営報告

統合経営報告

トップコミットメント

株式会社クレアン 代表取締役社長 冨田 洋史

サステナビリティは大きな挑戦

SDGsが2015年に誕生してから、2030年のゴールまで、半分の時間が過ぎました。しかし、残念ではありますが、事態は芳しくありません。COVID-19や世界各地での紛争、インフレなどの要因により、SDGsの進展は停滞し、悪化の傾向にあります。2023年9月の国連報告書によれば、「“Leave no one behind”の原則は重大なリスクにさらされている」※1と警鐘を鳴らしています。

もちろん、企業レベルでの取り組みは後退してはおらず、むしろ進展が見られます。積極的に取り組む企業は増加していますし、CSRDやISSBなどのルールが整備されることで、サステナビリティが企業にとってますます重要な課題となっています。しかし、取り組みの標準化や要請事項が増加した結果、多くの企業にとって対応することで目一杯となり、手段が目的化して形式だけを整えることも多いように感じます。

持続可能な社会を実現するためには、社会全体の変革が不可欠です。その萌芽は感じられるものの、このままでは芽が育つ前に社会は破綻してしまうかもしれませんし、企業もそうした社会変化に飲み込まれてしまいかねません。

共感と協創が鍵となる

この状況を打破するための鍵となるのは共感と協創だと私は考えています。1つ目の共感は、より多くの人が行動を起こすために必要なものです。企業の中では、サステナビリティは重要テーマになった結果、担当部門だけで対応することになってはいないでしょうか。担当部門や一部の関心のある人たちだけでなく、より多くの共感を集め会社全体の取り組みにしなければサステナビリティに取り込むことはできません。共感が集まれば、自然発生的に持続可能な発展に貢献するビジネスが生まれたり、環境負荷に配慮して日々の業務を企画するかもしれません。

また、一般社会からも取り組みに共感してもらう必要もあります。ほとんどの生活者がSDGsを認知するこの時代ですが、実際に消費に結びつけている人は12.7%※2とまだまだ多くはありません。認知から行動へつなげていくにも、共感が重要なキーワードになります。

さらに必要なのが協創です。SDGsが掲げるような野心的なゴールは一人、一部門、一企業で達成できるようなものではないからです。例えば、プラスチック廃棄物一つとっても、様々な自治体との連携を通じてプラスチックを収集できるようにする必要がありますし、コストを下げるには競合他社と量を合わせていくことも必要ですし、最終的に消費につなげるには流通との協力も必要です。サステナビリティという共通のゴールを実現するには、競争ではなく協創がまずは大切なのです。

対話が1歩前に進める機会をつくる

この共感と協創を生み出すために、クレアンが力を入れているのが「対話」です。対話は、AかBかを決める議論とは違い、AとBという異なる価値観を共有したうえで、Cという新しい価値観を生み出していくことだと考えています。サステナビリティ部門と事業部門で対話を行うことで双方に共感できる形をつくる、競合企業同士で対話を行うことで新しい協創の形を見つける。こうした可能性を対話は持っているのではないでしょうか。

クレアンはレポーティングとコンサルティングを一貫して支援することが多いため、1年を通じてお客様の様々な対話の機会に立ち会います。サステナビリティの担当部門と他部門との対話から、経営層とステークホルダーとの対話、現場社員同士の対話、さらにはクレアンとお客さまとの対話。そのプロセスの中にある対話の機会を大切にすることで、ただ額縁に飾られた何かをつくるのではなく、関係者にとって納得度の高い考え方を浸透していけると考えています。

2023年度に社内のベストプラクティスとなった案件があります。レポートの企画のご支援でしたが、クレアンから企画案だけでなく「問い」を用意して、役員も含めた参加者がより掘り下げて検討できるプロセスを組み込んでいました。私たちが外から考える結論ではなく関係者が対話することで、お客様の言葉で語れるストーリーがまとまっていく。そうした、一つのきっかけになれたのではと感じています。

また、異なる立場や関係者同士が協働するためには、積極的な対話の場を提供することが必要です。2023年度も、「サプライチェーンの人権課題をどう扱えばいいかを業界で考える」、「自治体と地域金融と中小企業のサステナビリティを考える」、「未来の社会をどう考えているのかを若者と一緒に考える」、など、様々なテーマで幅広いステークホルダーと対話をしてきました。もちろん、簡単に形になるわけではありません。しかし、こうした一つひとつのきっかけこそが、大きな課題への協創を生み出す契機になると信じていますし、多くの方にご参加いただきたいと考えています。

答えがない時こそ行動を大切にする

2024年度、私が特に社内に伝えているメッセージの一つに「Take action!」というものがあります。そもそも、サステナビリティは非常に難しい課題で、正解となるようなアプローチはそうはありません。だからこそ、現状をよく観察して、スピード感をもって行動をして、振り返っていくことが大切です。また、2023年8月の社長交代に合わせて、クレアンは様々な組織的な変更も行いました。そこからそれぞれの部門・チームが数カ月間、自分たちで理想形やそのための計画を練るための助走期間を取りました。だからこそ、クレアンにとって、今は行動が重要だと感じています。

私が代表取締役社長に就任してから半年以上が経ちますが、まだまだ自分の力不足もあり、メンバーに支えられていることが多いかもしません。しかし、だからといって私自身も悩んで立ち止まっている場合ではありません。走りながら社会を変えるための解決策やクレアンの発展方法、さらには自分自身の成長を見つけていかなければいけません。いまの立場だからこそ、クレアンのメンバーと一緒になって、行動を起こす、行動を支える、といったことを必死でやっていきたいと考えています。また、お客さまにもこうした試みにぜひ加わっていただきたいと思います。こうした挑戦の連続が、お客様、メンバー、ひいては社会のサステナビリティへつながるようご期待いただければ幸いです。