統合経営報告

統合経営報告

トップコミットメント

統合(サステナビリティ)経営のカギとなる価値観の転換

新型コロナウィルス感染症(COVID-19)により亡くなられた方々に哀悼の意を表するとともに、ご遺族の皆さまに心よりお悔やみを申し上げます。また、コロナ終息を願うと同時に医療現場で働く方々や私たちの生活インフラを支えてくれている方々に心から感謝を伝えたいと思います。

新型コロナによって、世界は二極化しつつあります。残念ながら分断に向かう国や利己主義なリーダーもいますが、コロナで拡大した経済格差やジェンダー不平等を是正する胎動も見られます。私たちの未来は持続可能かどうかの大きな分かれ道に立っているようです。

でも白か黒か、ゼロかイチかという二元論ではなく、陰と陽、そして中庸をとるという東洋的な思想に基づいた選択と行動が必要だと感じています。過去の成功体験にとらわれずに、相反するものを受け入れながら新しい発想を融合することができれば、複雑に絡まりあったパズルの答えが見つかることでしょう。

コロナによる価値観の転換(自分の人生を問い直すタイミング)

世界中の人々が例外なく、コロナで同じ痛みを味わったことで、グローバルな社会連帯意識も生まれていると感じています。すでに目に見えて、人々の価値観やライフスタイルも変わってきました。ステイホームの時間の中で、自分の人生にとって何が一番大切なのか、気づいた人も少なくないはずです。

私自身も生き方、暮らし方を見つめ直し、改めて会社と自分の存在意義や存在価値について考えるきっかけとなりました。もしもコロナに感染して重症となったら、残された時間の中で何ができるのか。後世に何が遺せるのかと自問自答し、真剣に思いを巡らせました。実は1995年に阪神・淡路大震災で実家が被災した経験からも、いつ死んでも後悔しないようにと自分が納得できる生き方を選択してきましたが、今回、自分自身の人生のパーパスが結晶化され明確となってきました。

この世に授かった生命は誰もが平等に一つだけ、そして命には限りがあります。だからこそ、誰かの役に立つために死ぬまでの時間を最大限活用したい。少しでも社会が笑顔あふれる心豊かな方向にシフトできれば、私の人生は充実したものとなって、きっと悔いはありません。自分とすべての生命がつながっていると感じられた瞬間、みんなの幸せは私の幸せにつながって、私の幸せも誰かの幸せとなるでしょう。多くの人たちの役に立って喜ばれたら、それが身近な小さい行動でも、もしかしたら世界を変えるうねりとなるかもしれません。私たち一人ひとりが少しだけ自分の意識を変え、利他的な行動をすれば、次世代の子どもたちに笑顔あふれる素晴らしい未来をプレゼントできると信じています。

世界の潮流となりつつあるステークホルダー資本主義

クレアンでは2000年ごろから、ステークホルダーを重視した長期思考の経営こそが社会をサステナブルに変革できる近道だと確信し、企業に向けてサステナブル経営へのアドバイスを行ってきました。けれども当時は、環境問題や社会課題解決は財務面とのトレードオフの関係でコストだと捉えられ、短期的思考から抜け出せなかった企業も少なくありませんでした。ところが現在、2030年をゴールとしたSDGsの実現や2050年までにカーボンニュートラル実現という超長期的な国際社会や政府からのプレッシャーと同時に、ステークホルダーからの期待や自社のビジネスチャンスの顕在化により、経営者の意識も急速に変わってきました。

ステークホルダー資本主義が、2020年のダボス会議(世界経済フォーラム)のテーマとなり、世界の共通言語になってきたことも喜ばしい変化の兆しです。これまで株主利益を最大化する「株主資本主義」一辺倒だった企業も、従業員や、取引先、顧客、地域社会、NGO/NPOなどのステークホルダーの利益に配慮すべきという考え方に切り替わりつつあります。アメリカでも、大手企業で構成される非営利団体「ビジネス・ラウンドテーブル(※1)」が、格差拡大や短期的な利益志向などこれまでの株主資本主義の問題点を指摘し、あらゆるステークホルダーにコミットする旨の声明を2019年8月に発表しています。これは、アメリカの企業にとっては、天動説から地動説に変わるぐらいの驚くべき大転換でしょう。さらに、「企業にステークホルダーに向けたパーパスの実現も目指すべきだ」としています。コロナ禍では、未来に起きる気候変動のリスクやパンデミック、そして人々の命や健康、人権などの尊厳を脅かす最悪の事態が、3倍速以上も早送りされたような気がしています。きっと、これまでのやり方では企業経営もますます厳しくなり、持続可能ではないという「不都合な真実」が露呈され、企業にも求心力が求められているのかもしれません。

ステークホルダー経営は、資本主義の再構築へのステップ

最近読んだ「資本主義の再構築」の中で、ハーバード大学名誉教授のレベッカ・ヘンダーソン氏は、組織を運営する方法には「安直な道を行く企業」と「王道を行く企業」の二通りあり、人間に尊厳と敬意をもつ企業は、革新的で生産性も高いと断言しています。まさに企業が、社会と共に共有価値を創造することは、公正でサステナブルな社会を築くために必要不可欠であり、王道を行く企業の構築が資本主義を再構築する上で、極めて重要なステップだと力説しています。これを読んだときに、まさにステークホルダー経営がこれからの時代の鍵であり、改めてクレアンで今まで行ってきたことは間違っていなかったと感じました。単に企業のCSR体制構築やESG情報開示、SDGsの社内浸透支援を行うのではなく、人類社会のサステナビリティというパーパスの実現に向けて、長期的に王道を行く企業に導くための変革サポート(伴走)を行ってきたことは、未来の資本主義の再構築につながっていると確信できました。新型コロナの打撃からの「グレートリセット」や「グリーンリカバリー」の潮流を背景に、さらにESG投資が注目されていますが、言葉を変えると持続可能な企業=「王道を行く企業」として、本気でステークホルダー経営を実践しているのかどうかを投資家も見極め始めたのかもしれません。ステークホルダーからの信頼も厚く、サステナブルな社会を創る情熱と実行力を持つ多様な人財の宝庫ともなる企業は、変革(トランスフォーメーション)を起こし、長期的に企業価値を創造する企業となる可能性も大きいからです。

未来のステークホルダーの期待がパーパス

けれども、グローバル先進企業がCSRやサステナビリティを経営にコミットし始めてすでに20年以上(1992年の地球サミットからだと30年近く)になりますが、残念ながらグローバルな経済格差や教育格差は拡がり、毎年、巨大災害によって多くの命や生態系が失われているのが現実です。日本や米国などが新たに発表した分析では、2030年までの温室効果ガス排出削減目標が達成できたとしても、世界の平均気温は産業革命前より2.4度も上昇(※2)。このままでは10~30年先の未来は、大規模災害に見舞われ、食料危機やエネルギー危機の中で生活インフラもストップしてしまうかもしれません。もちろん、多くの企業活動が停止し、雇用も失われてしまいます。先進企業のサステナビリティ推進よりも悪化のスピードが速すぎて、気候変動にもほとんど歯止めがかかっていない状況だと認めざるを得ません。私たちがサポート(伴走)してきた日本企業はこれまで延べ800社ほどありますが、まだまだ大きなインパクトが生み出せていないのも事実です。

特に危機感を感じた今の若い世代(特に1995~2005年生まれのZ世代は世界人口の30%を占める)は、大人たちの無責任さに憤りを隠せず、何とかしなければならないと自分ごとと考えて動き始めています。スウェーデンのグレタ・トゥンベリさんをはじめとする若者の気候変動アクションが世界各地に広がっているのにもこうした背景があります。この年代は、未来に起きる不安を自分ごとと捉え、SDGsにも関心が高くエシカルな消費行動を実践しています。もちろん、企業選びでもエシカル就活を意識しているので、パーパスが明確で長期ビジョンがある企業なのか、SDGsゴールを目指して実践しているのか、仕事を通じて社会課題が解決できるのか、などに注目しています。

「将来、何のために社会に存在するのか=パーパス」が重要なキーワードになってきています。欧米での数々の調査結果でも「ミレニアム・Z世代は個人の価値観を重視、仕事を通じて社会を変えていく使命感が強い」というデータが出ています。欧米だけでなく日本の企業にとっても、パーパスを掲げることは、社員を含め、これから就職する優秀な人財をひきつける求心力となってくるでしょう。将来、革新的なイノベーションを起こすポテンシャルを持つ優秀な人財は、社会課題にコミットする企業を選ぶというデータもあります。企業の中で改めてパーパスが見直され、社内に浸透していけば、新しい分野にチャレンジする起業家(アントレプレナー)や社内起業家(イントラプレナー)も増えてくることでしょう。私も、次世代に笑顔あふれる社会に変革したいという起業家の一人で、未来の幸せな社会の仕組みを創造することにチャレンジし続けていますが、常にパーパスが行動の軸にありました。

2050年の誰ひとり取り残さない未来ビジョンをバックキャスティングで描く

パーパスと同様に忘れてはならないのが、バックキャスティングです。特にポストコロナ社会のビジョンは、SDGsが掲げる「誰ひとり取り残さない」理想的なポジティブ社会をバックキャスティングで描くことが重要です。バックキャスティングは、政策や企業経営だけでなく、組織の未来や個人の人生を考えるにも役立つ「ありたい姿からの逆算の思考法」ですが、私自身も、このバックキャスティングを活用して大きく人生が変わった一人です。クレアンを起業した1988年当時は、女性の活躍支援や環境・社会課題解決が企業経営の中核となることはあり得ない時代。そこで、サステナブルな社会とクレアンの2020年ビジョンをバックキャスティングで描きました。

「企業が長期ビジョンを持ち、経営の中核に環境・社会問題の解決が組み込まれる。日本でもサステナブル教育が浸透し、エコライフが当たり前という社会が実現している。そして、その実現化を私自身がライフワークにしている」というビジョンです。環境・社会問題という言葉をSDGsと拡大解釈すれば、驚くことに、描いたビジョンに向けて大きく社会が動き、今や現実となってきています。

未来の記憶があれば、行動変容が容易にできる

多様な未来シナリオを描き、長期ビジョンやパーパスを明確にすることによって、経営層だけでなく社員も実現に向けてモチベーションが上がるメリットがあります。未来をポジティブに考えるため、将来の不安も少なくなって元気になります。また、予想外の効果としては、今までしたことのない大きな決断が不思議とスムーズにできることです。私は、これを「未来の記憶」と呼んでいますが、想像力をつかさどる右脳に未来のありたい姿のイメージをインプットすることで、あたかも過去に経験したかのような感覚になるそうです。人間は、過去の経験値を活用して判断をすることがほとんどですから、理想的な未来の記憶が判断材料となることで、結果としてスピーディーにありたい姿に向けての決断が簡単にできます。また、ビジョンに五感をプラスすることで、この「未来の記憶」はさらにリアルになり実現可能性が近づきます。

ぜひSDGsのゴール実現のためにも、バックキャスティングと未来の記憶の思考法で、長期ビジョンを描き、逆算してそのギャップを埋めるために思い切った行動を起こしていきましょう。

クレアンは、「多彩な人たちが自分の得意分野で能力を最大限発揮できる場を創りたい」と考えて創業した会社ですが、「笑顔あふれる地球の未来に向けた変革をしたい」という思いを持っている人たちが集まっています。でも、クレアンだけでは小さな波紋しか起こせません。企業やNPO、政府、自治体、教育機関など様々なステークホルダーと連携しながら、「大きなサステナブルなインパクトを出す」というパーパスを掲げ、これからもチャレンジし続けていきます。

未来の子どもたちから満面の笑顔で「ありがとう」と言ってもらえる日のためにも。

  • ※1 ビジネス・ラウンドテーブルが2019年に発表した声明には、Amazonや、Apple、Booking Holdings、General Motors、HP、IBM、Intel、JPMorgan Chase等、アメリカ大手の経営者ら約180人以上が署名。顧客、従業員、サプライヤー、地域社会、株主といったすべてのステークホルダーの利益のために会社を導くことをコミット。
  • ※2 ドイツの研究者らが参加する組織「クライメート・アクション・トラッカー」(CAT)の2020年9月時点の分析